[Poison] My Cousin Vinny
『いとこのビニー』

【Part 2】

新米で法廷のしきたりも知らない弁護士というのはハラハラさせられて面白い趣向です。'The Rainmaker'『レインメーカー』(1997)ではMatt Damon(マット・デイモン)が初めて法廷に立つ弁護士を演じ、スリルを感じさせてくれました。'My Cousin Vinny'はコメディなので、Joe Pesciがまごつく様を丹念に描いています。いわば、往年のコメディアンJerry Lewis(ジェリィ・ルイス)が新米弁護士を演じたらこうもあろうか…という馬鹿馬鹿しさです。

いくら司法試験に五回落ちたからといって、六回目には受かったわけですから、法廷というものがどういう段取りで進行するかは知っているはずです。しかし、Joe Pesciの役は、我々と全く変わらない素人レヴェルとして描かれています。一応可笑しくて笑いはするものの、「こんなのあり得ない」という冷めた思いがしてしまいます。コメディであることは百も承知ですが、Joe PesciはJerry Lewisでは無いんですからねえ。

そもそも観客には青年二人の無実は分っているわけですから、コメディで彼等が助からないわけがありません。彼等の無罪放免は前提条件です。そこへ行き着くまでに、どれだけ紆余曲折を見せるかが脚本家の腕の見せ所です。しかし、証人への反対訊問もせず、検事の最終論告の間に寝てしまうなどJoe Pesciのドジさ加減だけ目一杯見せ、「さあ、そろそろ大団円にしなくちゃ」という頃になると、彼を急にペリィ・メイスンみたいに頭も切れ、キビキビと行動する弁護士に変貌させています。これは非常に唐突でペテンに近い手法です。私はこういう統一感のない、説得力もない脚本は嫌いです。

チャラチャラした軽薄そうなMarisa Tomeiも、急に自動車に関して博識であることが分ります。確かに、町へ到着した時、黒人男性との会話で彼女が車に強いということが触れられていました。しかし、これは伏線というには一寸弱いと思います。もう少し印象に残る行動であれば伏線足り得ますが。また、資格も無い彼女の言葉が証言として採用されるのも眉唾です。専門家が「彼女は正しい」と裏づけますが、だったらその専門家はなぜ自分で同じ結論を導き出せなかったのか。こんな怪しげな専門家が裏づけしたって意味が無いような気がします。

ところで、法廷の攻防は「二人の若者が緑色のコンヴァーティブルで急発進するのを見た」という目撃者数人の証言を巡って行なわれます。コンヴィニ店員を殺した凶器については一切触れられません。銃やナイフなどの物的証拠を探すのが捜査の初歩の筈ですし、それら無しの目撃者の証言だけというのは随分お粗末です。いくらアラバマ州だからって、かなり馬鹿にしています。

一つ、単純な疑問。何故、二人の青年の両親は裁判に来ないのでしょうか?十代の息子が殺人罪で起訴されたというのに、Vinnyに任せ切りにしています。こんな親ってないと思いますが。

IMDbの読者評には、この映画への賛辞ばかりが40も並んでいます。批判の声は無し。中には「20回も観た」なんて人が二人もいます。呆れますね。アメリカ人はこういうのが好きなんですねえ。

(January 12, 2002)





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