[Poison]

The Vernon Johns Story
『怒りを我らに』


【Part 2】

映画を御覧になったとすれば、「エッ?」という驚きがあったと思います。そう、Vernon JohnsはMartin Luthor King Jr.(キング牧師)の前任者だったのです。Vernon Johnsの白人との対立意識、会衆に向ってのアジ演説、派手なプレゼンテーション、法衣を着用しないこと等々に辟易していた長老は、彼の逮捕を機に彼の解任を提案し、役員一同から認められます。「後任には心当たりがある。若くて伝統を重んじ、穏やかな人物だよ」とニンマリする。それがMartin Luther King Jr.でした。御存知のように('The Long Walk Home'『ロング・ウォーク・ホーム』参照)、後々キング牧師はバス乗車拒否を呼びかけて成功し、それがキッカケで全米の公民権運動指導者となって行くのです。「伝統を重んじ、穏やか」どころではありません。その頃になっての長老の顔が見たいところです。

似たような筋に'Mr. Roberts'『ミスター・ロバーツ』があります。ミスター・ロバーツの反抗に手を焼いていた艦長James Cagney(ジェイムズ・キャグニイ)は、「大人しく、ちゃらんぽらんで、到底手向かいなどする筈が無い」Jack Lemmon(ジャック・レモン)を後釜に据えます。しかし、ミスター・ロバーツが南方で死んだという報がJack Lemmonを変え、彼もミスター・ロバーツのような行動を取り出すのです。艦長のうんざりした顔。そっくりじゃありません?

長老が判事に呼ばれて恫喝されます。判事の背後には星条旗と並んで大きな南部連合軍の軍旗が飾られています。これはまだ南軍の敗北を認めず、黒人を同格などと思っていない人間の象徴です。

逮捕されたVernon Johnsを見送りながら娘が起立して'Go Down Moses'を歌うのは、いかにもアメリカ的な、あるいは映画的な愛情と支持の表現です。アメリカ人はこういう正面切った意思表示を好みます。この映画には出て来ませんが、"I'm proud of you."という表現があります。子供が少年野球でヒットを打った時にも使われますし、夫の定年退職の日の朝に、妻が夫に云ったりもします。フットボールなどの地元チームが凱旋した時に、知事や市長は"We are proud of you."と云います。「あなた(方)を誇りに思います」とは訳せますが、日本ではこんなことは云いません。アメリカ的な、正面切った云い方の一つで、これは最高の誉め方になります。

Vernon Johnsが苦境に立った時、彼の奥さんが"I love you, Vernon Johns."と云います。相手のフルネームを口にするのは、非常に怒った時か、このように深い愛情を伝える時です。相手の全存在を考えていることを示します。ここでは「何があってもあなたをサポートする」という意思を伝えています。ジンと来る台詞です。

彼の説教の一つは「新聞に、シーズン外に兎を撃って逮捕された事件が出ていた。黒人を撃っても罰せられないということは、黒人は兎以下なのか!」というのがありました。Vernon Johnsはドクターの称号を得たぐらいですから、頭も良くプライドもあったようです。

Vernon Johnsの言動、家族との繋がりなどはよく描けているのですが、残念なのは彼を中心にした非常に狭い世界に見えること。Martin Luther King Jr.へと繋がる縦の筋はいいのですが、もう少し横にも広げてほしかった。

(March 30, 2001)





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