[Poison] Venom
『ヴェノム 毒蛇男の恐怖』

【Part 2】

この映画の“凄さ”は、登場した青年男女が主人公Agnes Brucknerを除いて全員殺されてしまうことです。「この子は殺さなくても…」というような娘も、情け容赦なく、しかも呆気なく殺されてしまいます。多分こういうホラー映画は珍しくないのでしょうが、私はホラー・ファンではないので一寸びっくりしました。

大男Rick Cramerとその薄汚い大型牽引トラックの存在は、明らかに'Duel'『激突』(1972)のイタダキですね。彼がトラックから降りるのをブーツから見せるのは『激突』そのもの。彼の顔を見せず、腰でじゃらじゃら揺れる鍵束を見せるのは'E.T.'(1982)そっくり。『激突』もどきの大型トラックとの闘いとホラーを結びつけたアイデアは悪くありません。

血の繋がった父(大男Rick Cramer)を呪うために、その子(D.J. Cotrona)の死体をヴードウー人形にして刺すというのも面白いアイデアです。しかし、実際には親子であるという二人の関係が丁寧に描き込まれていないので(息子の台詞のみで処理されている)、折角のアイデアが生きていません。「何だ、ヴードウー人形にするために親子という設定にしてあったのか」と、仕掛けが見え透いてしまい、安っぽくなっています。

この映画の最大の問題は恐くないことです。撮影・照明・編集などはしっかりしているのですが、肝心の脚本がお粗末な上に、監督が割と保守的な左脳派なんじゃないかと推察します。ホラーなんてものは、左脳(理屈)ではなく右脳(感覚)で勝負しなければいけないので、格調ある映画作りよりも多少乱暴なぐらいの方がいいのだと思います。「撮影・照明・編集」と書いて「音声」を含めなかったのは、人物たちが何者かの存在を知る「チリン!」という効果音(何度も出て来る)が小さ過ぎて聞こえなかったからです。そもそも、微かな「チリン!」という音を選んだ脚本・演出に問題があるのかも知れません。

音響もそうですが、映像も編集も音楽も「ドカーン!」と人を脅かすような工夫がなく、非常に大人しいのです。毒蛇に身体を乗っ取られた大男Rick Cramerがゾンビーとなり、人を何度でも襲うのは結構。彼の身体の中の蛇の目が見えるなどという趣向も面白い。青年男女数名が無惨な死を迎えるのもいいとしましょう。しかし、それら全てがすんなりと描かれていて、観ている者にショックがないのです。これではホラーとして落第です。

'I Know What You Did Last Summer'『ラストサマー』の場合は、青年男女たち数名が乗った車が人を撥ね、死体を海に投げ込んで知らんぷりを決め込んだところ、一年後に何者かが青年男女を一人ずつ殺害して行くというお話でした。明らかに復讐であり、残りの人間がいつどのように殺されるかという恐怖が支配します。人間誰しも心の中に轢き逃げの心理(罪が恐いので逃げちゃおうという誘惑)があるので、われわれ観客は青年男女に感情移入してハラハラし、スリル満点でした。復讐者は誰かというミステリも映画を引っ張っていました。こちらの映画は復讐も何もなく、目の前の人間を見境無く殺すという単純な話です。ファーストフード・レストランの従業員たちと常連の客が次々に殺されるわけですが、それは全くの偶然であり、意味はありません。不死身のゾンビー、不滅の毒蛇が相手ということになると、高位のヴードゥー司祭がやって来るまで殺戮は止まらないことになります。

事実、この映画は毒蛇が野に放たれたところを見せてエンドになります。それは「ヴェノム2」を作りたいという野心からでもあったでしょうが、『ラストサマー』と違ってエンディングが作りにくかったが故の苦し紛れ(投げ遣り)な筆法だとも云えます。

(August 09, 2007)





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