[Poison] The Legend of Bagger Vance
『バガー・ヴァンスの伝説』

【Part 2】

監督のRobert Redfordは、かなり原作に忠実に映画化したそうです。ある俳優の証言では、主人公 Junuhの元の恋人でゴルフ場の持ち主の女性が、原作ではあまり描かれていないのに、ロマンスを加味するために比重が大きくなった…その一点だけだそうです。

となると、この映画の欠点は原作の欠点ということになります。私が欠点と考えるのは、本当の主役であるBagger Vance(バガー・ヴァンス)の存在感です。「どこからともなくやって来て、誰かを助け、又いずこともなく立ち去る」と云うと、これは'Shane'『シェーン』ですね。Shaneの場合、世話になった家族を助けるためには、そこの旦那と壮絶な殴りあいまでやって、自分一人だけで危険な対決に臨みます。Shaneの義理堅く、任侠道に通じる男気が爽快でした。Bagger Vanceは控え目過ぎて、私などは欲求不満になるほどです。「正体不明のキャディ」だそうですが、経験は豊富で、いいことを云うし、説得力もあります。しかし、主人公Junuhが何度か無茶なプレイをしようとすると、黙って見てるんですね。喧嘩して帰ってしまう'Tin Cup'『ティン・カップ』のキャディよりはいいかも知れませんが、「何故、説得しないのだろう?」と思ってしまいます。説得したり、しなかったりで、脈略がありません。

で、このBagger Vance、最後のホールのプレイ終了を待たずに消えてしまうのです。Junuhが「オレにはあんたが必要だ」と頼むのですが、「いや、あんたはもう大丈夫だ」とバイバイしてしまいます。あと、たった数ショット、たった15分が待てない理由って何なのでしょう?理解不能。

オフィシャル・サイトによれば「最初の編集で2時間25分だったものを、2時間7分に縮めた」そうです。ここで何かBagger Vanceが沈黙する理由がカットされてしまったのかも知れません。

Bagger Vanceを演ずるWill Smith(ウィル・スミス)はこれまでのアクションものやコメディーと違うのに、よく頑張っていますが、それにしても一本調子です。常に落ち着いてニコニコしているだけ。Will Smithによれば「いわゆる“賢者”とか“老師”めいた指導者ではなく、どこにでもいる人間味ある男を演じたかった」そうなので、これは彼の演技プランの責任です。Matt Damon(マット・デイモン)は、これ迄出演した映画で常に「彼以外は考えられない」というハマリ役ばかりでしたが、今回は別です。当初、Robert Redford(ロバート・レッドフォード)が監督・主演でやるかという線もあったが、歳を食い過ぎているということでMatt Damonに廻ったそうです。つまり、誰でもいい役だったわけですね。

恋人役の女性Adeleを演ずるCharlize Theron(シャーリズ・セロン)は確かに美人ですが、勝ち気な女という設定が災いしているせいか、気品が感じられません。また、少年役のL. Michael Moncrief (マイケル・モンクリーフ)は物語の地元で発掘されただけあって、南部訛りが堂々としていい味を出していますが、残念ながら可愛いくない。最近のアメリカ映画に出て来る少年・少女は、どうしてこうマセた、ヒネたのが多いのか?例えば、'The Sixth Sense' 『シックス・センス』(正しい読みはシックス・センス)、'Remember the Titans'『タイタンズを忘れない』 など。

私は俳優Robert Redfordは好きですが、監督としての彼は線が細過ぎるような気がします。綺麗な画面が沢山登場しますが、それが映画全体の重みとなりません。点々と散りばめられているだけです。David Lean(デイヴィッド・リーン)やGeorge Stevens(ジョージ・スティーヴンス)のようにいかないのです。前に「大人の童話」と書きましたが、これはかなり好意的な表現で、Matt Damon(マット・デイモン)を観に来る若い女性たちには良くても、大人の観客の鑑賞には耐えられないような気がします。

(November 05, 2000)


【これはゴルフ「80を切る!」日記に書いた記事を転載したものです】




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