[Poison] Uncle Tom's Cabin
(未)

【Part 2】

演出が芝居がかっているというのは、以下のような点です。

農園主の娘Evaは、お転婆で盗癖と虚言癖のある少女奴隷Topsy(トプシィ)と仲良しなのですが、そのままではTopsyが売られてしまうと心配し、「いい子になって、Topsy。あなたを愛しているから」と云い、誰からも愛されたことのないTopsyは感動してひざまずいて泣きます。すると、Eveの頭に二重焼きで後光が差して来ます。Evaは類い希な美少女なので、彼女の心根の美しさは何もわざわざ後光を出さなくてもよかったと思われます。【ついでですが、このTopsyは白人の少女が顔を黒くして出演しています。コメディ・リリーフ役なのですが、演技過剰(=演出過剰)で正視出来ないほどです】

もう一つ。Evaは(多分川に落ちた後の肺炎か何かが原因で)亡くなります。ベッドの上のEvaの両脇で両親が泣いています。ベッドの片端では奴隷少女Topsyが泣いています。と、画面の上端から光が差し、天使が舞い降りて来て(これも二重焼き)Evaの身体を伴って天国へと上って行きます。唖然。

仮借ない折檻によってUncle Tomは死んでしまうのですが、残虐な農園主がElizaを追って屋根裏部屋へ行くと、Uncle Tomの亡霊(これも二重焼き)が現われ、農園主を誘導して窓から転落死させます。

以上の三点は非常にわざとらしく、当時の素朴な観客をあっと驚かせることは出来たかも知れませんが、今となっては小手先芸に過ぎず何の感銘もありません。後光が差すのなどは、押し付けがましいという感じすらします。

監督のくどさは、Part 1で述べた母子が流氷を渡るシーンなどでは逆に効果を上げています。これは撮影の最初の年にはニューヨーク州の凍てついた川で、カメラも凍てついてしまうもの凄い寒さのもとで撮られたそうです。途中で監督は風邪を引き歯痛になり顎の手術の後長い療養が必要で、この年は流氷のシーンの撮影は断念しました。翌年はUniversalスタジオの裏山に川のセットを作り、人工雪、人口流氷で撮影したそうです。前年の実際の体験に合わせたせいでしょうが、実に入念に良く出来ていて、裏話を知らなかった私は「危ないのによくやるなあ!」と感心して観ていました。確かに、人物や犬が氷を踏み外したように見えるのに、すぐ氷の上に出て来るのが不思議でしたが、実はこの“川”は膝の高さぐらいしか深くなかったのです(DVDにロケの写真がありました)。それでも、このシーンは圧巻です。

ニューオーリンズの残虐農園主は、Cassie(キャシー)という"mulatto"の女奴隷を情婦にしていたのですが、新たに手に入れた若い女奴隷Elizaに舌なめずりします。CassieはUncle TomからElizaの話を聞き、それが実の娘であること悟ります。彼女は嫉妬に狂ったふりをして農園主の鞭を用いてElizaを追い回した末、別室で親子の名乗りを上げ、二人は固く抱き合います。

その頃、Elizaの夫Georgeは息子Harryが買われた先を突き止め、北軍の進攻に慌てふためく農園主の鼻先から息子を奪い返します。父子は北軍と一緒にニューオーリンズへと南下します。

残虐農園主は、女二人の行方を教えないUncle Tomに怒り、Sambo(サンボ)とQuimbo(キンボ)という二人の男奴隷(こういつらの顔がゴリラみたいでもの凄い)に交互に鞭打たせます。さすがのゴリラ奴隷たちも最後にはUncle Tomが可哀想になり、「もうこいつはお陀仏でさ」と農園主に云い、Uncle Tomの身体を貰い受けます。室外でゴリラ二人は横たわるUncle Tomに詫び、Uncle Tomは二人を赦して息を引き取ります(この時は二重焼きはありません)。

Uncle Tomの霊によって農園主が転落した時、丁度北軍が通りかかり、一緒に歩いていた夫と息子がElizaを見つけ、親子三人は再会を喜びます。

長いフィルムをカットし一般受けさせるため、アクション・シーンが主に残された結果、タイトルのUncle Tomは脇役のようになっています。まあ、狙いがUncle Tomというより白人によって好き勝手に売り買いされ、家族離ればなれにさせられ、人権を蹂躙される奴隷制度を告発することであれば、Elizaを含む黒人一般のお話でいいわけです。原作を読みもしないで云うのはナンですが、ストウ夫人の題名の付け方がまずく、誤解を生むものだったということでしょう。

(January 03, 2007)





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