[Poison] Fried Green Tomatoes
『フライド・グリーン・トマト』

【Part 2】

ナーシング・ホームというのは、「老人ホーム」と云えば云えますが、日本のより明るくて自由度が大きい気がします。アメリカの家庭は一家族単位で暮していて、老いた親と一緒というのは珍しい。老人たちは身体の自由が利く限り自分の家に留まります。しかし、自分の身の周りのことも不自由になって来ると、看護してくれる施設に移る必要に迫られます。自分の家は息子に譲るか売り払って、ナーシング・ホームに引っ越します。私のカミさんの母親が、実はナーシング・ホームに入っています。この映画に出て来る施設の風景は、私にもお馴染のものです。

二つの筋を同時進行させるというのは'Crazy in Alabama'『クレイジー・イン・アラバマ』でも使われています(あちらは両方の筋が現在進行形で、こちらの一つは過去形ですが)。共通するのは、片方が漫画チックに描かれていることです。これは、両方の筋を重くすると相殺されるから…という配慮でしょう。しかし、どうしても軽く描かれる方が損をします。そして、この『フライド・グリーン・トマト』の場合、本当に二つの筋が必要だったのだろうか?という根本的な疑念が湧いて来ます。老女の物語は興味深いものですが、別に女性の独立心や自尊心を鼓舞する内容ではありません。Evelynの変化と過去の物語の関連がいまいち納得出来ません。

IdgieとRuthは何の偏見も無く黒人達と仲良くしています。これは珍しいと思ったら、早速K.K.K.が出て来ました。しかし、この映画の内容からすればK.K.K.を出す必要は無かったように思います。

常にIdgieを護る忠実な黒人Big Georgeは Stan Shaw(スタン・ショー)が演じています。彼は色んな映画でお目にかかります。'Freedom Song'では公民権運動の活動家を演じていました。あまり似合わなかったけど。

殺人事件には松本清張のある短編のトリックと全く同じものが使われています。証拠隠滅の大胆にして巧妙な手口です。これ以上は書きません。分る人にだけ分るお話。

Ruthが亡くなった時、時計を止めるという哀悼の表現が珍しい。初めて見ました。'Once Upon a Time... When We Were Colored'(邦題未定)で黒人女性が亡くなると、鏡に黒い布を被せています。『地球の歩き方〜アメリカ南部』(ダイヤモンド社刊)の「葬送の文化」というコラムに、「夫が死ぬと、妻が先ず家中の時計を止め、玄関や鏡に黒い布をかける」と書いてあります。

肥満のEvelynがそれなりにスマートになって行くのはいいですね。多分、初めの方をより太めに見せていたんでしょうが。

しかし、老女Ninnyをベッドに寝かせ、さも死にかけているように思わせ、Evelynが彼女を引き取りに行くと、部屋は空っぽで掃除人が「部屋の主は死んだ」と云います。「ああ、やっぱりね」と思います。しかし、実際には老女はナーシング・ホームを退去しただけ…というのは、観客としては鼻面を取って引き回された思いです。こういう騙し方はいけません。

Evelynの夫は全然納得していないのに、親戚でも何でもない老女を家に引き取るというのはどうなんでしょうか?離婚にまで発展しかねない大問題だと思いますが。

最大の謎はNinnyはIdgieだったのかどうかという点です。顔立ちも似通っており、最後でそれが解明されるのかと思ったのですが、映画では謎のままで終っています。原作ではNinnyはIdgieの兄弟の一人と結婚した女性で、最後にナーシング・ホームで死んだことになっています(本を通読したわけではないので責任は持てません:-))。何故、映画で結末を変えたのでしょうか?Ninnyを殺したくなかった、ハッピー・エンドにしたかった…ということでしょうか?Ninnyが語った長い物語は、Ninnyが死んでもEvelynにちゃんと引き継がれ、今度はEvelynが誰彼となく話を聞かせるようになる…というエンディングもあり得たでしょう。どうせ人間は死ぬのですから、そのように何かが継承されるだけでも一種のハッピー・エンディングだと思います。あるいは、映画のラストのようにEvelynは道路に座っているNinnyを見るが、一瞬後にはその幻影は消えてしまう…というのも、映画の始まりに呼応してよかったかも知れません。

最後のクレディット・タイトルが終ると、暗闇で汽笛が二回鳴ります。御存知でしたか?

(Aril 27, 2001)





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