[Poison] The Toast of New Orleans
(未)

【Part 2】

Mario Lanzaはその人気とは裏腹に、オペラの上演には二回しか参加していないそうです。その一つは、奇しくもNew Orleansオペラ協会主催の『蝶々夫人』でした。この映画の『蝶々夫人』の歌いっぷりが見事なのも理解出来ます。

Mario Lanzaは1952年の音楽映画『学生王子』の撮影前に全ての歌曲を録音した後、「太り過ぎ」を理由に解雇されました。映画は別人が代役を勤め、吹き替えでMario Lanzaの歌が使われたそうです。ショックを受けたMario Lanzaはアル中となり、ダメージから回復出来ずハリウッドから消えて行きました。

この映画は彼の第一作だけあって、まだ演技の幅が大きくなく、いつも同じ「いいお顔」をしているのが欠点。それを除けば、Elvis Presleyなどを遥かに凌ぐ役者振りです。

私はKathryn Graysonをあまり評価しません。表情による演技などは及第点だと思いますが、コロラトゥーラ・ソプラノというのが甲高過ぎてあまり性に合わないのです。IMDbのディスカッションには、「本来ソプラノ用に書かれた『蝶々夫人』をコロラトゥーラ・ソプラノで歌わせるのはおかしいし無理がある」という意見がありました。同感です。

David Nivenはイギリス紳士を演じるのが定番なのに、ここではフランス系アメリカ紳士を演じています。彼は最後の『蝶々夫人』を舞台の袖で見ていて、「愛の二重唱」の素晴らしさに打たれ、次いでその「愛の二重唱」が芝居だけでなくKathryn GraysonとMario Lanzaの本心であることを感じ取る表情が見せ場。繊細な、いい芝居です。幕が下りた後、Kathryn GraysonとMario Lanzaが舞台を中心にぐるぐる追いかけっこしますが、David NivenはMario Lanzaに彼女の行く先を無言で教えて、もうKathryn Graysonを諦めたことをはっきり示します。これも彼の個性に合わせた脚本の妙です。

Mario Lanzaの叔父を演じるJ. Carrol Naishは演技過剰で辟易させられます。演出の責任でもありますが。

冒頭の漁村のお祭りで、Mario Lanzaは一緒に踊っていたRita Morenoを男友達James Mitchellに譲って一緒に踊らせ、自分は歌に専念します。私は「あれっ!」と思いました。この趣向はミュージカル映画 'Oklahoma!'『オクラホマ!』にそっくりです。'Oklahoma!'でもGordon MacRae(ゴードン・マクレー)の幻想シーンで、James MitchellがGordon MacRaeになり代わってダンスをつとめました。こちらの映画でも、James Mitchellは踊れないMario Lanzaの代役をつとめているわけです。 'Oklahoma!'(1955)はこの映画の五年後ですから、こちらがそのアイデアの先駆者だったんですね。

(December 31, 2006)





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