[Poison] Remember the Titans
『タイタンズを忘れない』

【Part 2】

私がアメリカ流センチメンタリズムというのは、怪我をした選手の母親が競技場へ行くと、周りの観衆が立ち上がって彼女に(彼女を通して病院の選手に)拍手するようなことを差します。選手に直接拍手するのは普通ですが、その母親に拍手するというのが泣かせます。日本では一寸考えられませんよね。

白人コーチWill Pattonはジレンマに陥ります。Denzel Washingtonを立派に補佐するか、手抜きしてDenzel Washingtonが馘になるのを狙う(そして自分がヘッド・コーチに昇進する)か。Will Pattonが好人物風に描かれているので、あまり彼の心理的揺れ動きは明瞭ではありませんが、勝ち気な娘の期待に応えて返り咲きを目指していることは推測出来ます。それが普通の人間です。州選手権の前の試合で、彼の取る道がTitansの運命を決します。彼は利己的にはなれなかった。しかし、Titansは勝った!これもアメリカ流センチメンタリズムですね。

'Based On A True Story' by Jonathan Vankin and John Whalen (A Cappella Books, 2005)という、実話を元にした映画100本を検証する本を読みました。その中の'Remember the Titans'『タイタンズを忘れない』の章から、これまでの私の紹介に漏れていた部分だけ引用します。

「人種統合によるTitansはオールスター・チームとなり、シーズン開始後の十試合に連勝しただけでなく、プレイオフの三試合にも勝って州チャンピオンとなった。彼らはシーズンの総合スコアを得点357対失点45として他を圧倒した。敵に10ポイント以上許したのはたった二回であり、九つの試合において相手チームを無得点に抑えた。

こういう一方的に強いチームではドラマにならないので、プロデューサーJerry Bruckheimer(ジェリィ・ブラッカイマー)影響下のハリウッド風脚本では、州選手権試合の相手校とハラハラするシーソー・ゲームを展開し、かろうじて10対7で勝ったことになっている。事実は27対0の圧勝であった。また、相手校は映画ではMarshall(マーシャル)になっているが、実際にはAndrew Lewis(アンドルー・ルイス)校であった。Marshallとは州チャンピオン試合の八週間前に対戦し、21対6で勝っている。

映画ではDenzel Washington演ずるコーチが、午前三時に選手たちを叩き起こし、南北戦争の激戦地へ走らせ、深みのあるスピーチをする。彼らが古戦場Gettysburgを訪れたのは事実であるが、実際には夜明けではなく日中、しかもランニングではなく観光バスで行き、コーチは何も喋らずバスの運転手の観光案内を選手と共に聞いていただけだった。

当時の選手、コーチたち、T.C. Williamsの教師たちが語るところによれば、人種差別の実態も全く違う。映画では1971年までT.C. Williams高校というものは存在しなかったようになっているが、実際には出来てから五、六年経っており、人種統合はどちらかと云えばスムーズに推移していた。父兄がプラカードを持って校門前に押し寄せるなどということはなかった。

Will Patton演ずる白人コーチが『ヴァージニア高校フットボール名誉の殿堂入り』を熱望しているというのもフィクションで、そんな名誉の殿堂は存在しない。なお、この白人コーチには四人の娘があったが、それを脚本では一人に統合している。

事実と異なる全ての改変は、『負け犬の勝利』という製作者Jerry Bruckheimer好みの物語に仕立て直す手段としてなされている」

…とこういう風に事実を知ると、この映画が冒頭に"Based on a true story"と表示するのはまずいように思われます。"Inspired by a true event."(実際起ったことにヒントを得た物語)が妥当でしょう。

この映画のDVDのSpecial Featuresを視聴しました。このDVDには1) 'An Inspirational Journey Behind the Scenes'という短編、2) 製作者Jerry Bruckheimer、脚本家Gregory Allen Howard(グレゴリィ・アラン・ハワード)、監督Boaz Yakin(ボアズ・ヤーキン)の三人によるコメンタリー、および3) 映画のモデルとなったヘッドコーチHerman Boone(ハーマン・ブーン)とディフェンス・コーチBill Yoast(ビル・ヨースト)の二人によるコメンタリー…が含まれています。面倒なので、以上の三つから得られた情報の主なものをまとめて紹介します。

・脚本家Gregory Allen Howardはヴァージニア州Alexandria(アレクサンドリア)の床屋と客が素晴らしいフットボール・チームTitansについて話しているのを聞いた。「そんな凄いチームなら一度見てみたい」と彼が云うと、床屋は「30年前の話でさあ」と笑った。しかし、Gregory Allen Howardは30年経っても語り継がれているチームというのは、よほど凄いに違いないと感じてリサーチを開始し、当時のコーチHerman BooneとBill Yoastにも会って話を聞いた。脚本は完成したが、どの映画会社も買ってくれなかった。かなり経った頃、製作者Jerry Bruckheimerの会社が「読ませてくれ」と云って来た。Gregory Allen Howardは「是非読んで下さい。お願いします!」と頼み、神に祈った。

・脚本家Gregory Allen Howardは「78%は事実に正確なストリーィである」と云っている。

・脚本を読んだJerry Bruckheimerは、感動的なストーリィだと感じた。Disney(ディズニィ)に相談し、共同製作のゴー・サインが出た。しかし、並のハリウッド映画の予算は500万ドル以上なのに、この映画は270万ドルしかなかったため、Denzel Washington以下の俳優たちも、Jerry Bruckheimer自身もギャラを削って仕事することになった。

・コーチHerman Booneはノース・キャロライナ州の高校のフットボール・チームで目覚ましい戦果を挙げていた。しかし、1969年になってその高校の評議委員会が「われわれは現在黒人のヘッドコーチを必要としない」と通告して馘になった。彼はヴァージニア州Alexandriaに引っ越して来て住んでいた。

・Alexandriaは政府の催促を受け、公教育現場の人種統合を行なうことになった。三つの高校が統合されてT.C. Williams高校となって白人・黒人の生徒が混じり合うことになったのである。T.C. Williams高校の評議委員会は人種統合の象徴として黒人コーチHerman Booneをヘッド・コーチに据えることにした。しかし、Herman Booneは「自分の経歴、経験、戦果を評価されてのことなら嬉しいが、肌の色のせいで雇われるつもりはない」と拒絶した。しかし、町の黒人たちが「コーチになって、黒人の名誉の松明を掲げて走ってくれ」と説得したため、引き受けることになった。

・自他共にT.C. Williams高校のヘッド・コーチに就任出来ると思っていたコーチBill Yoastはショックを受けた。彼は「傷つき、失望し、腹が立った。映画のように娘も怒っていた。しかし、生徒たちからも町からも離れたくなかったので留まることにした。コーチBooneと人生観は異なるが、目標は同じだった」と述べている。【註:二人のコーチは現在も良き友人同士である】

・選手を演ずる若者たちは、クランクイン前に二週間のトレーニングに参加させられた。中にはフットボールの経験がゼロの俳優もいた。本格的なフットボールの練習なので、みな苦しんだが、おかげで全員の意識が一つになることが出来た。

・コーチHerman Booneは、トレーニング・シーンが正しく演じられるように撮影現場で指導に当たった。彼は「撮影を見ていて涙が出た。それほどこの映画は純正なものだと云える」と云っている。「これはドキュメンタリーではなく映画である。言葉の一言一句が事実そのままだというわけではない。映画なんだから、100%真実である必要はないのだ」と云う。

・コーチBill Yoastには四人の娘があったが、映画ではそれを一人にまとめている。コーチは「製作者Jerry Bruckheimerは娘たち一人一人に電話して事情を説明し、娘たちも納得した」と云っている。映画のモデルとなった娘は、この映画の完成前に亡くなった。

・コーチHerman Booneは「トレーニング・キャンプに向かうバスに白人・黒人を一緒に乗せたのは事実だ。映画のように、私は試合前にいつも吐いた。私は相手校のコーチに渡すバナナは持っていなかったが、エテ公呼ばわりされたのは事実だ。チームの白人キャプテンが事故に遭ったのは州選手権大会の後で、雪による事故であった。映画は予算の関係で雪を降らすことは出来ず、映画をエモーショナルにするため事故を州選手権大会の前に変更している。しかし、みんなで病院に駆けつけ、黒人の仲良しのチームメイト一人だけが病室に入れて貰えたのは事実である。この二名が人種の違いを乗り越えてチームの一体化を促進したのも事実だ」と云っている。

・コーチBill Yoastは「この年、Titansが手を焼いた試合はシーズン半ばのたった一試合だった。あとは全て楽勝だった」と云う。

・コーチHerman Booneは「私はたまたまいい時にいい場所にいたに過ぎないが、私にとっては大きな誇りであり、忘れ得ぬ経験である。世界が忘れさせてくれない経験でもある」と語っている。

・この年、Titansは全米高校フットボール選手権で第二位になった。

(January 05, 2011)





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