[Poison]

Out of Time

『タイムリミット』

【Part 2】

アメリカは健全な国なので不倫や犯罪は許されません(勿論タテマエだけですよ)。警察署長となれば尚更です。映画通はそれを知っていますから、開巻早々からSanaa Lathanが疫病神となってDenzel Washingtonを苦しめるであろうことを察知します。

Denzel Washingtonも馬鹿です。不倫の男女が白昼堂々公道でキスしたりするなんて、普通じゃ考えられません。恐れない彼らも彼らですが、町の誰も気付かないというのも妙です。この場面は隣町だとか云うのかも知れませんが、隣町でも顔見知りはいるでしょう。私の住む人口40,000の町だって警察署長の顔は新聞やTVで知れ渡っています。この映画の舞台Banyan Keyは定住者は多分1,000人もいないでしょう。誰でも警察署長の顔を知っていて当然です。まして、この頃麻薬ディーラーを逮捕したニュースによって、彼の写真はローカル紙の一面にデカデカと掲載されたばかりです。こういうのは脚本家の自己矛盾です。

他人の不在を狙って、部屋を勝手に使って人を騙すというのは'North by Northwest'『北北西に針路を取れ』のパクリですが、まあいいアイデア。警官の現在地が分るナヴィゲーターという小道具の存在もよろしい。電話やファックスをスリリングに使ったアイデアも結構。

Denzel Washingtonが携帯電話で誰かと話しているふりをしますが、最後に"If you'd like to make a call, please hang up and call again."(電話したいのであれば、一旦受話器を置いてもう一度電話して下さい)というお決まりのメッセージが聞こえます。これが聞こえれば彼のインチキはばれる筈ですが、誰も気付きません。妻であり刑事のEva Mendesには聞こえたような演出ですが、彼女は深く問い質しません。このEva Mendesが不審に思う表情を見せながら、深く疑わないという演出は何度か繰り返されます。結局、何も行動に移さない彼女は頓馬ではないかという印象になります:-)。

Dean Cainは死体置き場に勤めているので、死体を二体かっぱらって来るのは簡単でしょうが、検屍では歯型を取って過去の歯科診療記録と照合する筈です。たちどころに、死体が家の持ち主夫婦とは別人であることが分ることでしょう。詳しく知りませんが、黒焦げの死体であっても血液型なども分るのではないでしょうか?脚本家はその辺も押さえてミステリを執筆して貰いたいものです。

最後に浮気の相手Sanaa LathanがDenzel Washingtonに銃を向けます。本当に癌治療に大金が要るならともかく、ただ贅沢する金ほしさに愛人を撃つというのは解せません。要するに、あれだけ犯罪に手を貸しDenzel Washingtonをハメた女を生かしてはおけないという理由で、脚本家は彼女を本当の悪党に仕立て上げたかったようです。昔なら、粗暴な旦那がDenzel Washingtonを撃つと、妻がDenzel Washingtonの前に立ち塞がって弾を受け止め、死んでしまう。驚く旦那をDenzel Washingtonが撃つ。かくして犯罪者たちは一気にオサラバというパターンが多かったと思います。ま、それを踏襲したくなかったのは分るし、Sanaa Lathanが刑務所に行くだけではDenzel Washingtonはずっとその出所を待つということになって、メリハリのあるエンディングにならないと危惧したのも頷けます。しかし、どうも後味がよくありません。あれだけ愛し合っていた男女ですからね。

警察署長Denzel Washingtonは事件を解決し、金も取り戻しますが、彼の公務執行妨害、証拠隠滅、ホテル従業員への暴力など数々の“犯罪”はどう処理されたのでしょうか?身にかかる火の粉を払うというのは正当防衛に当たるのでしょうか?仮にそうだとしても、法を遵守すべき警官が法を冒すというのはタテマエ的に許されないでしょう。不倫の場合は道徳的なものなので、周囲が許すかどうかで済みますが、警官として法を踏み外せば厳しい制裁があることでしょう。彼がそのまま署長に留まれる筈はありません。

(October 09, 2003)





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