[Poison] Tightrope
タイトロープ

【Part 2】

以下はネタばらしありですので、この映画を観るおつもりの方は読まないで下さい。

映画は、(映画の中の)最初の犠牲者が夜の町をストーカーにつけられる場面から始まります。ストーカーは、まるで被害者のアパートを知っているかのように先回りして待っているのが不思議。この映画では、観客を驚かせるために小さなショックをいくつも用意していますが、どれも理屈に合わずケチな仕掛けなのでがっかりします。Clint Eastwoodを写しているカメラの前にニューッとピストルが突き出されますが、それは単に同僚刑事の銃だったというような…。観客を馬鹿にしています。

ストーカーの靴が何度も出て来ます。台詞では「テニス・シューズ」だと表現されていますが、白いスニーカーなどではなく、ベージュの地に黄色い紐というダサい趣味。この靴のサイズが小さいので、まるで恐ろしくありません。この靴が色々な場面で出て来て、Clint Eastwoodもつけられていることが分ります。鑑識の男は殺人現場の足型から「間もなくメーカー名さえ割り出してみせる」と豪語します。

犯行現場に大麦の成分が遺留されていることが判り、Clint Eastwoodは「ビール工場だ!」と飛び出して行きます。製粉工場やレストランのコックという可能性もある筈ですが、それらは度外視。地ビールDixie Beerの工場(実在します)へ行くと、作業員の一人がテニス・シューズを履いていてClint Eastwoodは「こいつか!」と緊張します。しかし、次の瞬間作業員のほとんどがテニス・シューズであることが分ります。これもコケ脅しの一つ。

同僚に「Dixie Beerの作業員の犯罪歴を洗え」と頼んでいる最中、“偶然”新聞のスクラップが出て来ます。それは過去にClint Eastwoodがレイプ犯を逮捕した時の記事。「こいつも調べてくれ」と彼は追加します。で、このレイプ犯が実は出所していて、今度は連続殺人まで犯していることが分ります。推理とか、足で探し出したわけではなく、ひょいと出て来た昔の新聞記事一つが事件を解決してしまうのです。何なんだ、この映画は!この殺人犯は、ついでにClint Eastwoodに復讐するために彼のセックスの相手を見境なく殺し、おまけに彼の家にまでやって来るという無茶苦茶な奴。犯人はClint Eastwoodの長女を縛り上げますが、彼女には何もしません。製作兼主演のClint Eastwoodの実の娘だから何もしなかったのか(女優としての彼女のイメージが暗くなりますからね)、幸運にも犯人にロリコンの気がなかったという設定なのか、どちらかは分りません。いずれにせよ、こんな所業は父親を怒らせるので「早く捕まえてくれ」というようなもんですね。ここまで来ればもう一本道で、お約束通り善玉と悪玉の取っ組み合いとなり、観客の期待を裏切ることなく主役が勝ち残ってめでたしめでたし。

Clint Eastwoodが正真正銘の善玉かどうかは、実は疑問です。彼は娼婦など何人もの商売女と関係しますが、お金を払っている所は画面に出ません。女性たちが彼の魅力に参って無料奉仕したという推測も出来ますが、刑事ということで無料サーヴィスの恩恵に与ったのであれば、それは賄賂と同じことになります。これは"dirty"以外の何ものでもありません。

この映画ではニューオーリンズの街そのものも"dirty"で、おどろおどろしく危険な街に描かれています。私の知るニューオーリンズはそういう街ではありません。もちろん、私がおどろおどろしく危険な場所を探訪していないのと、主に昼間しか出歩かないせいもあるでしょう。しかし、ニューオーリンズでも危険な場所は限られていると思います。映画を信じてはいけません。本当にこういう街だったら、いくら有名なお祭りがあるからといって大勢の観光客が来るわけがありません。

そのマルディグラのお祭りにClint Eastwood一家が出掛けますが、予算がなかったのか、時期的に本当のお祭りに便乗出来なかったのか、パレードそのものの描写はなく、バーボン・ストリートの雑踏だけで済まされています。その雑踏もスカスカです。本当は大混雑でスリが大喜びしそうな状況になるのに。

(February 16, 2007)





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