[Poison] Thieves Like Us
『ボウイ&キーチ』

【Part 2】

この映画の原作小説の最初の映画化は1948年でした。同じような銀行強盗の映画'Bonnie and Clyde'『俺たちに明日はない』は1967年。そしてこの映画がその8年後の1974年。『俺たちに明日はない』は“ニューシネマ”という称される斬新なジャンル確立に寄与した先駆的作品でした。そういう画期的な映画に酷似した物語をなぜまた作ろうとしたのか?それもオリジナルではなくリメイクで。大きな疑問です。

製作者たち(製作、脚本、監督など)は、「これは『俺たちに明日はない』とは大違いだ」と云うでしょう。確かにスタイルは違います。『俺たちに明日はない』のようなファッショナブルな気取りや、甘ったれた感傷(母を訪ねるシーンなど)はなく、こちらはかなりリアルな描写が積み重ねられます。

主人公の男女がペアとなるまでのプロセスも大いに違います。『俺たちに明日はない』では唐突というか発作的に二人が互いに相性を見出しますが、こちらは社交的会話から始まり少しずつ二人の関係が深まって行く経過が誰にも納得出来るように描かれています。二人の子供っぽいやりとりが、田舎のどこにでもいる男女を彷彿とさせて微笑ましい。

主人公が仲間の縁者に裏切られ、密告されて死ぬのは両方同じ。『俺たちに明日はない』の男女は87発の銃弾を浴びるそうですが、こちらは日本版の宣伝文句では「500発の銃弾」だそうです。見た限りではそんなに多くなかったと思いますが。

「こっちには脱獄シーンもある!」と製作者たちは云うかも知れません。開巻早々の脱獄ではなく、後半で仲間を救う脱獄です。Keith Carradineがシェリフになりすまして刑務所のJohn Schuckに面会に行くという趣向。大胆不敵で面白いと云えば面白いものの、23歳の無学な青年に面会申請書みたいなものが偽造出来るとは思えません(もうこの時、初老のリーダーは亡くなっている)。ですから、彼が刑務所のゲートを通過出来るとは思えないのです。それなのに、堂々と許可を得て仲間を監督している責任者まで騙し通す。

よく考えれば、この刑務所はKeith Carradineが数ヶ月前に脱獄した刑務所なのです。看守たちにすれば、自分たちをコケにした憎い脱獄囚ですから、多くはKeith Carradineの顔を知っていたり写真を見たりしている筈です。しかし、誰も気づかない。随分楽に侵入出来るものじゃありませんか。私はこういう御都合主義は嫌いです。

こちらの製作者たちが唯一原作を変更した点は、ヒロインShelley Duvallに関する最後の処理です。原作ではKeith Carradineと共に警官たちの銃撃で死ぬことになっていたそうです。映画では彼女を殺さず、テキサス州へ行ってKeith Carradineの子供を生むことにしています。なぜ殺さなかったか?殺すと、全く『俺たちに明日はない』そっくりになってしまうからでしょう。製作者たちは(当然)『俺たちに明日はない』と比較されることを想定していたのだと思います。

Keith CarradineとShelley Duvallが愛し合うようになるまでの経過のほかに、もう一つ感心した脚本・演出があります。食卓でリーダーのBert Remsenが彼らの銀行強盗に関する新聞記事をみんなに読み聞かせている時、「そんなことはどうでもいい」というように彼の弟の妻Louise Fletcherは平然と自分の娘や息子のテーブル・マナーを躾けます。深刻な新聞記事の朗読と子供を叱る日常が何度も交錯するという不思議な場面。Louise Fletcherの「(強盗なんかには)関心ないわ」という表情も素晴らしい。

Louise Fletcherはアラバマ州に生まれ、ミシシッピ州の高校を卒業してノース・キャロライナ州の大学を卒業という、生粋の南部女性。子育てのために一時女優業から引退していたところを、彼女の友達でもあった監督Robert Altmanが「是非この映画に出てくれ」と頼んだのだそうです。この映画の彼女の演技が、'One Flew Over the Cuckoo's Nest'『カッコーの巣の上で』(1975)準備中のMilos Forman(ミロス・フォーマン)監督の目に止まり、精神病院の毅然とした性格の看護婦長役のオーディションに呼ばれます。何度かのオーディションの末射止めたその役が、彼女の同年のアカデミー主演女優賞受賞、ゴールデン・グローブ賞受賞に繋がりました。

(June 08, 2007)





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