[Poison] Tender Mercies
『テンダー・マーシー』

【Part 2】

'Tomorrow'でRobert Duvalleの役はいきなり(身元も知らぬ)女性にひざまずいて結婚を申し込みます。この'Tender Mercies'では、女性と二人で畑仕事をしていて、「再婚する気はあるのか?」と聞き、「ある」という返事に「俺との結婚を考えてくれるか?」と薮から棒に尋ねます。女性も「考えるわ」と素直です。脚本のHorton Footeが愛する人間像のようです。

Robert Duvalleはかつて有名歌手であったことを何とも思っていません。過去の栄光を誇ってもいないし、落ちぶれた今を僻んでもいない。バンドの若者達が相談にくれば、ちゃんと対応するし、共演までします。恬淡としています。

娘が彼に会いに来ます。長く会っていないので、成長した娘の姿に感動した筈ですが、昂ぶった感情を見せるでもありません。娘も距離をおいていて、彼の胸に飛び込もうともしません。娘は彼女のために作られた曲をおぼろげに覚えていて、そのことをRobert Duvalleに尋ねますが、Robert Duvalleは「覚えていない」と答えます。娘が去った後、彼は静かにその曲を歌います。忘れる筈がないのです。劇的になることを避け、抑制された表現によって水面下のパッションを感じさせるHorton Foote脚本の妙です。

Robert Duvalleは娘との約束を忘れ、彼女が再訪した時に家にいませんでした。娘は恋人とルイジアナ州にドライヴの旅に出て、事故で死んでしまいます。Robert Duvalleはたった一度しか成長した娘と触れ合えませんでした。

脚本なのか監督の腕なのか解りませんが(多分、脚本でしょう)、「上手い!」と思わされた個所がいくつかありました。その一はRobert Duvalleが苛々して車で走り去るのを、車ではなく妻を画面に据えて見せるシーン。荒っぽく出て行く車の音と、彼を案じて見送る妻の顔。

その二は、同じ夜に母子がRobert Duvalleの帰りを待っているシーン。二人は何か話していますが、車の音がすると窓の外を見ます。通過して行く車ばかり。二人のRobert Duvalleを案じる気持ちがよく出ています。

どちらも映画ならではの映像と音の二重奏です。画と音がいつもくっついているのではなく、こういう風に独自に各々の役割を果たさせるのは、観客の理解度を信頼している高度な映画作法でもあります。

(November 06, 2001)





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