[Poison]

The Fighting Temptations

『ファイティング・テンプテーションズ』

【Part 2】

黒人俳優たちの肌色がよく撮影されています。黒でも紫でもなく、渋く淡い焦げ茶色。これはそうお目にかかれる撮影(とプリント)ではありません。

冒頭のゴスペル・シーンで感心したカット割りですが、アイデア不足になったのか、次第に並みの画面構成になってしまいます。この辺が'Chicago'と違うところ。あちらは最後まで頑張っていました。

ゴスペルというのは「福音」という意味ですから、それ自体では音楽を指すわけではありません。これは私も長く誤解していました。歌や音楽は"gospel music"(ゴスペル音楽)と呼ばれます。

私はアメリカ南部の小さな町に住んでいますので、この映画のようなゴスペル・ソングで盛り上がる教会の礼拝を覗いたことがあります。その経験から云えば、実は冒頭のシーンはいささかおかしいのです。先ず、舞台(?)のソロ歌手(というか実は司祭)二人と聖歌隊が盛り上がっているのに、会衆のほとんどは座っています。あれだけ盛り上がっていたら、黒人男女が座っていられるわけがありません。全員が立ち上がっている筈です。演出上、会衆を徐々に立たせようとしたのでしょうが、南部の黒人が見たら「こんなの嘘だ」と云うでしょう。

もう一つ、この教会はバプティスト教会であるとわざわざ看板まで出て来ます。確かに南部のバプティスト教会の多くは古くさく教条主義的なので、歌手の私生活まで非難して聖歌隊から追い出す教会としてはふさわしいのかも知れません。ところが礼拝の後、会衆の一人の女性が牧師に頭を触られて気を失います。私が覗いたような「カリスマティック・ペンタコスタル派」と呼ばれる教会では、何人も失神する姿を見ますが、バプティスト教会ではあり得ない出来事です。

冒頭のシーンは1980年ということですが、この教会に白人が多数参加しています。キング牧師暗殺の12年後ですが、この当時もう白人が黒人の教会に参加するようになっていたのでしょうか?私が覗いた上の教会には、現在三人ぐらいの白人は来ていますが、やはり圧倒的に少ないです。23年も前にこんなに白人が来ているというのは、やや信じられない思いです。

音楽映画なので、最後には全て丸く納まるのは見え見えです。それなら、意地悪な会計係のおばさんをああまで意地悪に描かなくてもよかったと思う。あれほど意地悪では、彼女が最後にCuba Gooding Jr.とBeyoncéの結婚を祝福するなんて信じられません。

Cuba Gooding Jr.は合唱の指揮なんか学んだことはない役なので、聖歌隊の前でトンボを切ったり、腕を振り回すしかやることがありません。これは間が抜けています。ところが、エンド・タイトルでは床の上で身体を回転させる凄い技を見せます。どうして、これを本編でやらなかったのでしょうか?勿体ない。

(October 07, 2003)





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