[Poison] Straw Dogs
『わらの犬』

【Part 2】

公開時に観たSam Peckinpah版は恐ろしいまでの暴力の洪水に思え、あまり思い返したくもない存在でした。新版も物語は暴力的ですが、南部の明るく澄んだ空気に邪魔されている感じです。イングランドのどんよりした天候と、じめついて捻じ曲がった性向の人々の恐ろしさの方が勝っています。

オリジナル版は難産だったそうです。イギリスの映倫から「レイプ・シーンが長過ぎる」とクレームがつき、二回目のレイプを大幅にカット、それでも「妻がレイプされるのを楽しんでいるように見える」などというイチャモンで再編集。そうまでしてもイギリスでの公開は禁止されてしまいました。

オリジナル版では、確かにマッチョな元カレとのセックスは妻が潜在的に望んでいたことのようで、台詞にもそれが現れています。しかし、妻は次の男(役名:Norman)は拒もうとして暴れます。この二度目のレイプ・シーンの大部分はカットされているのですが、次のカットの頭をよく見ると元カレが妻の身体を押さえてNormanのレイプを手伝っていたことが分かります。

どちらの版でも、不用心に家を空け、妻が犯されているのも知らずに森の中をさまよっている夫の姿はちと間抜けに見えます。

映画を鑑賞中のわれわれは、後半妻を犯された夫が暴徒に復讐しているかのように錯覚しますが、オリジナル版もリメイク版も、妻は犯されたことを夫に告げていません。夫の闘いは純粋に自尊心の問題です。リメイク版の妻は元カレを受け入れようとはしなかったので、夫に告白することは可能でした。しかし、オリジナル版は強姦が和姦に変貌していますから、夫に「レイプされた」と告げることは出来ません。どちらの場合でも、もし妻が「犯された」と話したら、夫はどう反応したでしょう?狂犬に噛まれたと思って無視出来るものでしょうか?こっちから闘いを挑むでしょうか?興味あるところです。

リメイク版は、かなりオリジナル脚本に忠実ですが、上のような部分を筆頭に妻の心理に多少の変更が加えられています。オリジナル版の妻は徹頭徹尾夫の弱腰を見下しており、夫の闘争心と戦略を過小評価し、保護した知恵遅れ青年を二度までも暴徒に差し出そうとします。ここまで妻に軽視されたら、もし助かっても夫婦間の亀裂は元に戻らないであろうと思われるほどです。

夫の暴徒との闘争はリメイク版の方に軍配を上げます。暴徒の一人の手を窓枠に釘付けにするなど、新しいアイデアが加えられているからです。熊の罠で元カレを殺すシーンは、リメイク版はちょっと物足りない感じですが。リメイク版で煮えたぎった油を浴びせられた元コーチは、苦痛で呻きながらのたうち廻るのが普通なのに、あら不思議、銃を持って攻め込んで来たりします。ゾンビーみたいで現実離れ。

リメイク版の物語の辻褄は合っていて、破綻はありません。しかし、どちらが怖いか?というと、やはりオリジナル版の方ということになります。

(March 26, 2012)





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