[Poison] The Southerner
『南部の人』

【Part 2】

主人公達の胸が詰まるような貧しい暮しを描きつつ、しかも心暖まる物語になっているという、不思議な映画です。そこがフランス人Jean Renoirが気に入った由縁かも知れません。実は監督はこの映画をテキサスで撮りたかったそうですが、戦時中という運送事情が悪い時期だったので、仕方なくカリフォーニア州の綿畑を使ったそうです。スタッフ、キャストがテント生活を送った近くにはロシア系移民の集落があり、毎夜歌ったり踊ったり賑やかだったとか。監督は「我々のどちらかというと陰気な物語は、しごく陽気な雰囲気の中で撮影された」と回想しています。

劇中に老人同士の結婚披露パーティが出て来ますが、ここには上の“陽気さ”が反映しているようです。私にはそこだけフランス映画のように見えましたが。

この映画(1945年)が先行しているのなら良かったのですが、既に公開された他の作品に似たシーンがいくつかあるのが気になりました。トラックに満載した家財道具、荷台にも人がいるというのは『怒りの葡萄』(1940)、引越先がオンボロ家でうんざりというのは'Drums Along the Mohawk'『モホークの太鼓』(1939)…に似ています。どちらもJohn Ford作品。

意地悪な隣人はJ. Carrol Naish(J・キャロル・ネイシュ)、その息子はNorman Lloyd(ノーマン・ロイド)が演じています。Norman Lloydはイギリス出身の俳優でヒッチコックの'Saboteur'『逃走迷路』で自由の女神の上から落下するスパイとして有名です。主役のZachary Scottが理想主義者なので、この二人は非常に泥臭く描かれて、双方でバランスを保っています。

「主よ、ここは空は美しいが土地は泥土で最低」という主人公の言葉は、映画の最後になって理由が解ります。大雨になると一気に洪水になり、とても畑なぞ維持出来ない土地だったのです。この年、主人公の家は小作料を納められませんが、種や肥料、機械使用料はどうするのでしょう。来年に先送りと云ったって、来年も洪水があるかも知れません。洪水の後、一杯のコーヒーで家族全員が明るく振舞いますが、ああいう風になれるものでしょうか。家族の固い決意というより、「あしたはあしたの風が吹く」という現実無視に見えます。

しかし、その洪水のシーンはよく出来ていました。勿論、実際に洪水を起こすのは大変なので、川の中に柵を設置したり、牛をぶち込んだりしたのでしょうが。

一家の結び付きは常に食卓で確認されます。温かいコーヒーを啜る。いつもガミガミ不平を並べる祖母も蜂蜜に顔を綻ばせる。銃で捕った獲物を神に感謝して有難く頂く。彼等の幸せそうな顔を見ると、「生き抜く」ことの大変さをしみじみ感じます。我々の生活の贅沢さも…。

(May 21, 2001)





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