[Poison] Sonny
ソニー

【Part 2】

興味深いシーンはいくつかありますが、その筆頭は母親Brenda Blethynが彼女の誕生日にHarry Dean StantonにせがんでAntoine's(アントワンズ)という高級レストランに行くシーン。これは実在する1840年創業のレストランで、盛装して出掛け、フランス語のメニューで注文し、ディナーが一人$50.00〜$70.00はするというお店。Harry Dean Stantonも蝶ネクタイにタキシード姿です(貸衣装か、友達に借りたのでしょう)。

テーブルについたBrenda Blethynは、ワインを呑みながらハイヒールを脱いで裸足になっているのをmaitre d'(メートル・ディ=給仕長)に見咎められ、「State Health Code(州健康規則)違反です。靴を履いて頂けないのならお帰り下さい」と宣告されます。Harry Dean Stantonはテーブルの上のバター・ナイフを掴んでmaitre d'を追いかけ、「おれたちは洗練された人種じゃないし、ここにしょっちゅう来れる客でもない。しかし、あんたはおれの目の前で、誕生日を迎えたおれの女を侮辱した。彼女に謝れ!」と云います。彼はBrenda Blethynと共に人生の落伍者であることを自覚しており、普段はBrenda Blethynの云いなりになっている男なのですが、ここでは急にナイト(騎士)ぶりを発揮し、それがひとえにBrenda Blethynのためなので泣かせます。もちろん、州の健康規則と、一流レストランの品格を保とうとしたmaitre d'は悪くなく、Harry Dean Stantonの行動が横車なのですが、maitre d'はBrenda Blethynのテーブルに戻って彼女に謝ります。ニューオーリンズならではのエピソードです。

テキサスで知り合ってJames Francoがデイトの後セックスするJosie Davisとのシーンも素晴らしい。二人のセックスは出て来ず、終って満足しているJosie DavisとJames Francoが話します。彼女は「あなたはこれで生きて行くべきよ」と冗談を云うのですが、「そうしてた」というJames Francoの言葉が冗談だと思って、笑いながら"What?"と聞き直し、「おれは"whore"(売春婦)だった」という言葉に、「"whore"は女だけよ。馬鹿ね」とまた笑い転げます。この時の彼女の愉しく陽気な表情が、彼が男娼だったと気づくに至って次第に表情が凍り付いて行き、果ては彼の感情の激発に恐れ戦くまでの変化が見事に演じられています。Josie Davisの全裸の観客サーヴィスにも拍手を送りたいところです:-)。

この映画の最も特筆すべきポイントはエンディングです。Mena Suvariは足を洗って中古車屋の店主と結婚することに決めます。メキシコで結婚(式+新婚旅行)するんだそうで、出掛ける前にJames Francoの家にやって来ます。旦那を車で待たせて家のドアの外で立ち話。
Mena Suvari「ここを出るべきよ。たった今。逃げるのよ」
James Franco「おれが選んだおれの人生だ。こうやって生きて来たんだ」
Mena Suvari「あなたが選んだんじゃない、彼女(=母親)が選んだのよ。あの人はあなたを引き摺りっ放しにするわよ」
James Franco「母を抛り出すわけにはいかない」
Mena Suvari「放っときなさいよ!自分のことを考えるべきよ。彼女はいくらでも女の子を見つけて働かすことが出来るのよ!」
James Franco「…」
Mena Suvari「私だって商売をやめられた。あなたにも出来るわ。家に戻らないで、このまま逃げなさい」
James Francoの頬にキスした彼女は、涙でぐちょぐちょになりながら男の待つ車へ去ります(彼女は本当はJames Francoと結婚したいのです)。James Francoは戻りかけて家のドアを見つめ、金縛りにあったように立ち尽くします。Mena Suvariが涙で流れたマスカラを拭き取ろうとバックミラーを見ると、James Francoがなり振り構わぬ走り方で追って来ます。Mena Suvariは慌てて車を出てJames Francoに飛びつき、キスします。二人の姿がホワイト・アウトし(フェードアウトの反対で真っ白になる)、次のカットは、何とまだ家のドアを見つめて立ち尽くしているJames Franco。彼が車を追いかけたのも、二人の抱擁も幻想だったのです。James Francoの、Mena Suvariの、そして観客の…。

二人の抱擁を見た時、「『卒業』みたいなハッピーエンドだな。ハリウッド風で安直だけど、ま、いっか」と思わせておいて、インデペンデント映画風に酸っぱく落とすという心憎いエンディング。このままでも面白いのですが、私にはもう一つの案があります。'Sommersby' 『ジャック・サマースビー』(1993) のPart 2で『女か虎か?』という小説の趣向について触れましたが、それを応用して、手前に立ち尽くすJames Francoを捉え、向こうに車に乗ったMena Suvariを配置し、『明日に向かって撃て!』のエンディング風にストップ・モーションにするのです。ストップ・モーションにする理由は、Mena Suvariに去らずに待っていて貰いたいからです。James Francoにとって、ドアを開けるかMena Suvariを追うかを永遠の課題にして映画を終える。その選択は観客個々の宿題ともなるわけです。『女か母親か?』難しい問題です。

(February 25, 2007)





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