[Poison]

Summer and Smoke

『肉体のすきま風』

【Part 2】

松竹映画『君の名は』は「すれ違いドラマ」として有名でした。東京数寄屋橋での再会を約した男女が、再会出来そうになっては様々な事情ですれ違います。男性は社会人として日本各地を転々とし、女性は望まぬ結婚のため北陸へ。二人はお互いに惹かれながら結ばれないのです。この『肉体のすきま風』の場合、「感情のすれ違いドラマ」と云うことが出来そうです。Geraldine Pageが燃え上がったときLaurence Harveyは冷え切ったまま。Geraldine Pageが諦めて冷えるとLaurence Harveyが燃え上がる。

東屋での熱烈なキスの後、Geraldine Pageは「もう"Miss Alma"じゃなくただ"Alma"と呼んで」と云います。子供時代から好きだった男と、晴れて恋人同士になれたと思った、婚期を逃がした女性のいじらしさ、喜びが表れています。しかし、Laurence Harveyは"Miss Alma"と呼ぶことを止めません。観客には、Geraldine Pageがこの女たらしを独占出来るとは思えませんので、Geraldine Pageの愛らしさの表現は、非常にむごい仕打ちに見えます。Tennessee Williamsの作品に共通することですが、人物を蟻のようにガラス箱に入れ、どう行動するのか観察する…という趣があります。「感情のすれ違い」も、Geraldine Pageの高揚と落胆も、全て冷酷な観察眼に見据えられた結果です。

私はキャスティングが問題だと思います。いくら有名でもGeraldine PageはLaurence Harveyより五つ以上年上のおばさんに見えます。実際の年齢は知りませんが、二人の肌の艶がそう語っています。20歳ぐらいの娘を演じているPamela Tiffinが惚れるんですから、どうしたってLaurence Harveyがそっちへ傾くのは仕方がありません。

それを知らないGeraldine Pageは、父の死を嘆く余り彼女に「牧師の娘という殻に閉じこもって、自分を胡麻かすオールドミスめ!」とLaurence Harveyから毒づかれ、やっと自分の間違いに気付きます。自分の感情に正直に…と決意し、彼への愛を打ち明けます。「煙の雲が吹き払われたよう。去年の夏の(頑なな)娘は死んだわ。あなたを愛してる。少女の頃からずっとあなたを愛していたわ」 誰でも気付いているように、これは遅いのです。彼は既にPamela Tiffinと婚約しています。またしても「すれ違い」だったのです。Tennessee Williamsは「これでもか、これでもか」とサディスティックに主人公を痛めつけます。

最後にGeraldine Pageは旅の行商人Earl Hollimanに出会います。気のいい彼と意気投合し、あんなに嫌いだった酒場兼賭博場へ案内します。二人の後ろ姿にエンド・マークがダブりますが、これをどう解釈したらいいのでしょう。

Geraldine Pageは町の音楽家(ホルン演奏家)と健全につきあっていたので、彼とどこかへ消えるのなら、まあ普通です。ここでわざと旅の行商人を出して来たのには何か魂胆があると思わなくてはなりません。私の勘ぐりは、この後Geraldine Pageは酒に溺れ、色んな旅の男とのセックスに明け暮れるようになるというもの。そう、『欲望という名の電車』の女主人公がニューオーリンズへ現われる前の生活そのものです。

百歩譲って、Geraldine PageがEarl Hollimanと仲良くなったとしたって、旅の行商人とくっついて彼女が幸せになれるでしょうか?旅の行商人も多分プレイボーイでしょうから、いずれにせよ彼女に明るい未来があるようには思えません。暗いですなあ。

(May 08, 2001)





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