[Poison]

Show Boat

『ショウ・ボート』

【Part 2】

この1936年で残念なのは、Paul Robeson以外の歌唱がどれも貧弱なことです。自分で歌っているIrene Dunneも、吹替えのAllan Jonesも、ブロードウェイ・オリジナル・メンバーのHelen Morganすらも、皆か細い声で魅力がありません。ミュージカルで歌に魅力が無いのでは落第です。

1951年版と大幅に違うのは、夫が蒸発した後、ヒロインがショー・ボートに返り咲くのではなく、そのままシカゴのショー・ビジネスで大成することです。十数年後、幼かった娘も母親の歩んだ道を辿り、花形歌手になります。駆け足であるとはいえ、相当長年月の物語になっているわけです。

その娘がデビューする大劇場にヒロインとその両親が駆けつけます。何たる偶然か(!)蒸発した夫がその劇場の楽屋番になっていて、劇的な一族再会となります。

私は劇場という背景が好きなので、この映画のエンディングも悪くはないと思います。ただ、題名が『ショウ・ボート』なのですから、1951年版がミシシッピのショウ・ボートに戻ったのは、統一感を得る点で正しいと考えます。こういうミュージカルの筋の重箱の隅をほじくってもしょうがないのですが、ヒロインは大歌手になっているわけですから、エンディングの大劇場にも当然出演した筈です。となれば、もっとずっと前に夫婦が再会している筈なので、このエンディング(あるいは夫の楽屋番という境遇)には無理があります。

また、この映画では黒人ペアPaul RobesonもHattie McDanielもいつの間にか消え、重要な役のHelen Morganもひっそりと消えたまんまで終ってしまいます。1951年版がヒロインの幸せを祈る薄幸なAva Gardner(エヴァ・ガードナー)の姿で終っていたのと大違いです。

ミュージカル(と映画)としては、実は'Ol' Man River'よりも'Make Believe'の方が重要なナンバーです。主役二人の愛のテーマであり、これは何度も歌われ演奏されます。"Couldn't you? Couldn't I? Couldn't we?"という歌詞もユニーク。同じOscar Hammerstein IIが書いた'Carousel'『回転木馬』(1956)の"If I Loved You"に何となく似ています。

1951年版を観たのは丁度一年前で細部を忘れてしまっていましたから、もう一度ヴィデオを借りて観てみました。1936年版はヒロインが“娘”というには成長し過ぎた感じだし、1951年版はヒロインの初々しさはいいものの男優がちと老け過ぎていて、この点はお相子です。1951年版は声量もあり音程の確かな歌声が揃っていて、安心して聴いていられます。1936年版ではヒロインの娘が急成長してしまいますが、1951年版ではエンディングでも二〜三歳の幼女です。こんな娘が生まれていたとは知らなかったギャンブラーがショウ・ボートに立ち寄り、娘を抱き締め'Make Believe'を歌います。感きわまってちゃんと歌えません。観ていて泣けてしまいました。そしてヒロインとの再会、抱擁。静かに去って行くショウ・ボートを見送る優しく哀しいエヴァ・ガードナー。もう滂沱(ぼうだ)の涙です。映画としては私は1951年版を評価します。

(February 26, 2002)





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