[Poison] Show Boat
『ショウ・ボート』

【Part 2】

後半の筋です。

容易に想像出来る通り、博打で生活が成り立つわけはなく、落魄した一家は高級住宅から貧乏人のアパートに移るが、そこの家賃も満足に払えない状態に。Magnoliaは「私はいいけど、娘が可哀想」と泣く。奇跡的にGaylordは大金を儲け、また高級住宅へ。「競走馬を買わないか?」と話を持ちかけられ、Gaylordは妻の反対を押し切って買ってしまう。何と、彼は馬主というだけではなく、繋駕レースの騎手も兼ねるのであった。初レース、先頭争いをしていて相手の『ベン・ハー』のレースもどきの悪辣な妨害によって転倒、馬は骨折して廃馬になってしまう。

再び落ちぶれた一家は再び貧乏アパートへ。Magnoliaは芸で生活費を得ようと、バンジョーの弾き語りの稽古を始める。悪いことは重なるもので、いい暮らしをしていた時は全く姿を見せなかったMagnoliaの母親が来るという電報。常々「私たちは幸せに暮らしている」と嘘の手紙を書いていたMagnoliaはパニックになる。姑にいいところを見せたいGaylordも焦る。彼は金策に出掛ける。

夫の持って帰った金は売春宿の女主人から得た汚い金であることを察したMagnoliaは、売春宿へ金を返しに行く。と、金を貸してくれた女は、子供の頃実の母よりも母のように慕っていたJulieではないか!しかし、Julieは「人違いだ」と云い張る。自分の商売を恥じていたのだ。アパートに戻ると、母がいて「あの男はいなくなった」と夫の別れの書き付けを見せる。

Magnoliaはショーの芸人となって黒人の唄を歌う。最初は客の総スカンを食ったが、バンジョー片手の弾き語りになると拍手喝采でアンコールを所望されるほど大受け。次第にMagnoliaは大スターとなる。しばらくして彼女は引退を宣言する。結婚した娘のヨーロッパからの便りを読んでいると、電報が届く。母の死の知らせだった。Magnoliaはショウ・ボートに戻る。老いさらばえた夫Gaylordが遠慮がちにやって来て、妻にひざまずき許しを乞う。Magnoliaは再会を喜ぶ。

…というわけで、この後に続くどのヴァージョンとも似通っていないお話です。

この1929年版は様々な鑑賞上の問題点があるわけですが、それを度外視しても他のヴァージョンに比べて欠点がいくつかあります。
・原作にある黒白混血のJulieの存在が活かされていない。
・他の版のようにMagnoliaとGaylordの娘がお涙頂戴の役に立っていない。
・Magnoliaの少女時代と彼女の娘を同じ子役が演じている。達者な子役なのだが、同一俳優であることは明白なので嘘っぽく見えてしまう。
・夫Gaylordはギャンブラーで充分なのに、この版では何と繋駕レースの騎手までやらせていて、かなり現実離れしている。
・シカゴでの生活描写が長過ぎ、題名の『ショウ・ボート』そのものが忘れ去られてしまう。
・夫は罪(妻子を見捨てた罪)の償いをしていないので、ラストでの帰還が身勝手に見え、本当のハッピー・エンドと思えない。

いいところも書いてあげないと不公平でしょう。
・ショウ・ボートが着く町では自転車が走り回っていますが、それが前輪が非常に大きく後輪が非常に小さい、まるで一輪車のように見えるもの。時代色が出ていて効果的。
・夜景(疑似夜景)の撮影がよく出来ている。
・スターになった妻の舞台を夫が見に来る。他の観客の目を気にしながら涙を拭う演出がいい。
・同じく、楽屋口から馬車で去る妻を物陰から夫が見送る。傘も無しで雨に打たれる夫。この演出も素晴らしい。

IMDbへの投稿によれば、今回観たものに含まれていなかった音声・映像のいくつかが既に発見されており、複数のオムニバス映画に収録されているそうです。「TCMはそれらを統合する努力を怠っている」と批判されています。確かにTCMには努力して貰いたいと思いますが、それらの修復によってこの版の価値が上がるかどうかは疑問です。もともとサイレント映画として作られたものなので、サイレント映画として完成度を高めてくれればよかったのに、“おまけ”の音声をつけたりつけなかったりしたため雑然とした印象を与えています。1936年版と1951年版があれば充分に思えます。

三つのヴァージョンのどれがいいか?と問われれば、私はやはり1951年版と云うでしょう。他の版にもそれぞれいいところはあるのですが、整合性と完成度という点で1951年版。

(January 20, 2006)





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