[Poison] Sex, Lies, and Videotape
『セックスと嘘とビデオテープ』

【Part 2】

この映画には電話するシーンが何度も出ますが、画面の人物Aと、画面では見えない人物Bの声の処理がとても妙です。
・人物A=Andie MacDowell、人物B=Laura San Giacomoの場合:
・人物A=Laura San Giacomo、人物B=Peter Gallagherの場合:
・人物A=Peter Gallagher、人物B=Laura San Giacomoの場合:
いずれも人物Aの声はややOffでくぐもって聞こえるのに、人物Bの声はOnで大きく明瞭に聞こえます。普通は画面上の人物AをOnで、人物Bの声は機械を通した電話声をOffで聞かせるところです。この映画では普通と反対なのです。どういう意図でこんな処理をしたのか知りたくて、DVDの監督のコメントを聞いてみました。別に明確な意図があるわけではありませんでした。彼は「私は電話フィルターを使わなかった。隣室で話す相手(人物B)の声をそのまま使った。誰も気づかないと思う」と云っています。気づかなければおかしいですよ、これは。多分、人物Aの声はマイクがカメラに写り込むギリギリのところで(数メートル離れて)録音しているのでややOffで、顔が写らず隣室で喋っている人物Bは口の前にマイクがあるのでいい音質でOnで録音されていた筈です。それを全く加工しないでそのまま使っちゃったのではないでしょうか?何も意図が無いのなら、これは手抜きと云われても仕方がない処理です。

また、セックスを終えてベッドに横になっているPeter Gallagherの頭を、画面に垂直に撮っているシーンがあります(彼が立っているように見える)。今度はLaura San Giacomoの頭が左から画面中央に出て来て、Peter Gallagherの頭の手前に収まります。寝ている人物二人が垂直に映るという奇妙な場面。監督Steven Soderberghはこのシーンを気に入っていると云っていますが、こんなのはカメラ好きの高校生のやることでしょう。無意味ですし。

James SpaderとAndie MacDowellが食事する場面で、Andie MacDowellはワイングラスを弄びます。Steven Soderberghは、「こういう場面で、カット毎に妙な具合にワインが増えたり減ったりすることに目くじらを立てる人がいるが、私は気にしない」と云っています。完璧主義者ではないという表明ですが、そういうこと(スクリプターや小道具係の不手際)で観客の集中心が妨害されることもあるということに気づいていないようです。結構、自分さえよければいいという人間なのかも知れません。

前の場面の終りにかぶさって、次の場面の台詞がかなり早くからスタートします。観客は一瞬どういうことか面食らいます。こういう編集がかなりあります。監督はこの技法を“オーヴァラッピング・ダイアログ”と呼んでいますが、このテクニックは"The Graduate"『卒業』(1967)から盗んだそうです。『卒業』で効果はあっても、こちらでどうかは別問題です。私はこの映画の編集法が素晴らしいとは思いませんでした。

Steven Soderberghは俳優をやる気にさせる名人のようで、主演の三人はそれぞれいい演技を見せていますが、彼は監督よりも脚本家の方が向いているような気がします。台詞も気が利いているし、場面転換のセンスも見事です。観客の予想を覆したり、要所要所で次の展開への期待を持たせるのも中々上手い。監督として高校映画クラブのような撮影・編集をするよりは、脚本に専念して貰う方がいいような気がします。

(September 01, 2007)





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