[Poison] Chasing Secrets
(未)

【Part 2】

この映画に出て来る祖父は典型的なレッドネックです。レッドネックは無教養で頑迷固陋、黒人を差別し、男尊女卑というのがお定まり。ただ、いくらレッドネックでも赤ん坊を捨てるという話は聞いたことはありません。以後のこの男の罪は児童虐待ですが、粗暴なだけで性的に虐待するのでないのだけが救いです。

どこの国でも児童虐待はあり、貧困により児童を働かせようという親もいるでしょう。そこまでは、まあありそうな話です。しかし、祖父が自分の娘を囮に使って15歳の孫と共に追い剥ぎを行なうというのにはびっくりさせられます。ここから、この物語が異常になって行きます。

Part 1の後、Della ReeseはMadeline Zimaを伴って黒人の教会へ行き、手拍子付きのゴスペルを合唱します。信者仲間の黒人婦人Yolanda Kingとその夫が、Della Reeseに「あんたは白人娘を自分の子供のように可愛がっているけど、頭を冷やした方がいい」と諭します。祖父がMadeline Zimaをバーで働かそうとして、嫌がる彼女の顔を引っ叩いて腫れ上がらせた時、逃げ込んで来た娘を抱き締め、Della Reeseは「もうこの子を返さない」と宣言します。しかし、Yolanda Kingとその夫は「そんなことをしたら、あんたは全てを失う。この問題は白人対黒人の問題となり、あの娘はその真ん中でバラバラに引き裂かれるだろう」と云います。夫のOssie Davisも妻を諌めます。

確かに、いかに家庭環境が劣悪でも勝手に他所の子を奪って育てるわけには行きません。法的手続きによって娘の保護者が保護者として適格でないと認定されても、娘はしかるべき施設に送られたり、保護者の手の届かない遠方に里子に出されてしまうでしょう。保護者と目と鼻のところに住む黒人の夫婦が娘を引き取るということは、先ずあり得ないでしょう。

結局、Della ReeseはMadeline Zimaを家に連れ帰るのですが、その後の出来事によって可愛いMadeline Zimaのために重大な助けをすることになります。

映画の冒頭で廃屋を訪れたのは、40代となった主人公が自分の十代の娘に過去を明かすための帰郷だったことが分ります。もう誰も住んでいず、Della ReeseとOssie Davis夫妻もとっくにこの世を去っています。「万一、彼女が戻って来たら…」と、Della Reeseが遺した包みには、彼女が手作りしてMadeline Zimaに上げたエプロンと、Della Reese愛用の賛美歌集が入っていました。

この《人々が無言でひっそりとこの世から消えて行く》というあしらいは、'Roots'『ROOTS/ルーツ』(1977)に似ています。'Roots'の場合も、人物の死の床や臨終の言葉など皆無で、縁者が訪れるともうその人物は墓に入っています。リアルで(劇的でなく)「そうもあろう」という人生の儚さが浮き彫りにされます。いい人も悪い人も、人知れず消えて行くのです。

(March 14, 2008)





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