[Poison] Scottsboro: An American Tragedy

【Part 2】

劇映画'Heavens Fall'(2006)にしてもこのドキュメンタリーにしても、日本では見られないでしょうから、特別に最後まで紹介します。

裁判の中で、検事側の証人として女性二人をScottsboroで診察した医師が「二人の体内に精液が見られた」と証言した。弁護人Samuel Leibowitzは、反対尋問で「女性たちの身体に格闘の痕や出血、擦り傷などがあったか?」と聞き、"No."という答えを得る。「精液の中の精子は動いていたか?」と尋ね、これにも"No."の答えを得る。Scottsboroで列車が停まる60〜90分前にレイプされたのであれば、精子はまだ生きていた筈である。動いていなかったとすれば、それは前夜の性交によるものに違いなかった。

流れ者Lester Carterが証言台に立ち、自分ともう一人が前夜二人の告発者とセックスしたことを証言した。

弁護人Samuel Leibowitzは、行方不明とされていたRuby Batesを弁護側の証人として登場させた。検察側も傍聴人たちもぶったまげた。共産党の弁護士たちの努力で彼女は捜し出され、New York風の粋な身なりで登場し、「一審ではVictoria Priceの指図通りに嘘をついた。そうしないと浮浪罪で刑務所行きになると云われたからだ」と証言した。

検察側は、Ruby Batesが共産党の金に釣られて友達(Victoria Price)を売り渡したことを陪審員たちに暗示した。検察側は最終論告で、「全てはユダヤ人たちが金で買収した証人ばかりだ。問題はアラバマの正義までユダヤ人の金で売り買い出来るものかどうかだ」と陪審員たちに暗示を与えた。

弁護側の完全勝利に思えた成り行きだったが、陪審員たちは全員有罪・死刑の評決をした。弁護人Samuel Leibowitzは愕然とした。彼はNew Yorkの共産党の集まりでアラバマ人たちについて悪態をついた。

Samuel Leibowitzは裁判長James E. Hortonに「裁判長権限で判決を覆し、再々審を行なって欲しい」と要請した。James E. Hortonは裁判記録を綿密に読み返した。彼は最初からVictoria Priceが虚偽を申し立てていると感じていた。だが、アラバマ州民は判決を歓迎していたし、彼の友人たちや政治家たちは「再々審はするな」と警告していた。それでも彼は判決を覆し、再々審を行なうことを宣言した。

検事Thomas Knightは州司法長官の権限を有効に用い、検察側に不利な判事James E. Hortonを裁判から退けた。そして“もう一人の検事”とも云うべき人種差別主義者の判事William Callahan(ウィリアム・キャラハン)を裁判長に選任した。

白人ばかりの陪審員たちは、又もや全員有罪・死刑の評決をした。

死刑囚となった九人は絶望し、互いに喧嘩したり、手製のナイフで守衛に切りつけたりした。

弁護人Samuel Leibowitzは、裁判が行われたDecaturの記録を調べた。これまで黒人の陪審員は皆無であることが判った。最高裁はその不公平な事実を認め、三審を行なうことを命じた。地元紙の編集長は、元々は「北」の攻撃に反撥する社説を書いていた人物だが、長引く裁判によって世界の注視を浴びるのは、南部の恥であり、アラバマ州にとって何の益もないと考え、「早く収束させるべきだ」とロビー活動を展開した。

検察側は弁護人Samuel Leibowitzが弁護団のリーダーでなくなれば妥協してもよいと云い、選択の余地がないSamuel Leibowitzは控えの弁護士となった。アラバマ州は五人の黒人の刑を確定したが、残る四人の告訴を取り下げた。【編註:レイプがあったのか無かったのかの判断を抜きにした、意味も無い数字合わせ】

釈放されたEugene Williams(事件当時13歳、現在19歳)、Willie Robinson(梅毒患者)、Olen Montgomery(ほとんど盲目)、Roy Wright(事件当時12歳、現在18歳)の四人は、六年の刑務所暮らしを終え、New Yorkを初めとするツァーに出、歌ったり踊ったりした。残る四人は刑務所暮らしを継続させられた。

アラバマ州の仮釈放委員会は三回にわたって四人の仮釈放を否決した。1943年11月、仮釈放委員会はついにCharlie Weems(事件当時13歳、現在31歳)を釈放、二ヶ月後Clarence Norrisを、1946年になってOzie Powellが釈放された。九人の中で最も凶暴と見られていたHaywood Pattersonだけが残された。

九人の黒人たちは、Clarence Norrisを除く八人が若くして亡くなった。Clarence Norrisは完全無罪を主張してアラバマ州知事に嘆願し、当時の知事George Wallace(ジョージ・ウォレス)が裁判の過ちを認めた。

弁護人Samuel Leibowitzは、"Yankee"(北部の人間)というだけでなくユダヤ人でもありました。K.K.K.はナチの鈎十字の旗を掲げていたことでも解るように、黒人や黒人に同情する者ばかりでなくユダヤ人も憎んでいました。黒人の公民権運動をサポートしたユダヤ人が何人もK.K.K.によって殺害されています。南部人イクォールK.K.K.ではありませんが、一般南部人の心理にもユダヤ人蔑視の底流はあったようで、検察側はそれをうまく利用しました。Samuel Leibowitzは「黒人の味方をし、南部女性を貶める奴」、「北部野郎」、「ユダヤ人」という、三つの要素によって南部人から嫌悪されたわけです。

いずれにしても粘り強い活動が九人の生命を南部のリンチから救ったわけで、これは画期的なことでした。

映画の最後で、Scottsboroに住む老人たちが、「おれたちの村の名がこういう事件で有名になるのは心外だった」、「少し離れた町の名を取って"Huntsville boys"(ハンツヴィル・ボーイズ)と名付けて欲しかった」などと愚痴るのが可笑しい。

(August 04, 2011)





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