[Poison]

Saratoga Trunk

『サラトガ本線』

【Part 2】

'The Birth of a Nation'『國民の創生』(1915)でも白人が顔を黒く塗って黒人役を勤めましたが、それはこの映画の30年も前の話です。召使いのFlora Robsonはアカデミー助演女優賞ものの演技とはいえ、この時期に白人俳優の黒塗りは異常です。白人と黒人の混血という設定のようですが(『國民の創生』もそうでした)、メークもよくないので薄気味が悪い。

小人は明るく振舞っていて道化の役を全うしていますが、やはりこういう存在も異常に見えます。

この映画を長く感じるのは、その物理的時間もさることながら、どう話が転がるのか(転がらないのか)定かでないからです。主人公二人の復讐心は語られますが、そのための工夫や努力が見られません。ですから、サスペンスを感じないのです。

では二人のロマンスが眼目かというと、二人は早々に結ばれてしまい、後は大人の関係が続いているだけです。映画が終る直前まで二人が本気で愛し合っているとは思えないので、この恋愛模様にもスリルがありません。

スペインの山の中で暮していたIngrid BergmanにはGary Cooperは恋しく思えたでしょうが、いい男、伊達男、逞しい男などがうじゃうじゃいるニュー・オーリンズにおいて、この初老に近い覇気の無いGary Cooperに惚れるのには無理があります。いくらTexasのカウボーイが恰好良く思えたとしても、彼女に相応しい年齢に見えません。まあ、'Love in the Afternoon'『昼下がりの情事』(1957)のAudrey Hepburn(オードリィ・ヘッバン)との組み合わせよりはマシですが。

Ingrid Bergmanに惹かれる鉄道会社の重役が、彼女に"Your friendship is the most beautiful thing that ever happened to me!"と云います。これはいい台詞です。

原作者はピューリッツァー賞受賞作家のEdna Ferber(エドナ・ファーバー)で、彼女は'Show Boat'『ショウ・ボート』、"Giant'『ジャイアンツ』などの原作者でもあります。映画会社は競って彼女の小説の映画化権を買い取りました。この'Saratoga Trunk'もベストセラーでしたが、映画はあまりうまく料理されていないようです。

なお、この映画は1943年には完成していたのに、ずっと第二次大戦中の慰問映画として鑑賞されていて、一般公開は二年後だったそうです。私には、出来の悪い映画なので世間を待たせに待たせて焦らし、「遂に公開!」という謳い文句で釣ったように思えます。邪推ですが、存外当たっているように思えます。

(February 26, 2002)





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