[Poison]

The Great Santini

『パパ』

【Part 2】

主たる問題は脚本・監督を担当したLewis John Carlino(ルイス・ジョン・カリーノ)の腕前です。メイン・ディッシュとして父と息子の対立、父と一家(妻や子)の関係があり、サイド・ディッシュにStan ShowとDavid Keithの人種的対立があります。双方に長男Michael O'Keefeが絡みますが、どうもこのサイド・ディッシュは取って付けたようで消化不良です。

メイン・ディッシュも、憎まれ者の父親を徹底して描くことをせず、妻と息子の方に逃げてしまいます。まあ、一般大衆の視点を慮った結果なのでしょうが、両方が描き切れず、「これは何を描いた映画なのか?」という疑問が湧いてしまいます。

私の知人に何人か海兵隊出身の男達がいます。彼等には共通した点があります。「海兵隊というのは常に外国の戦地に一番乗りする勇敢な集団である」という誇りと、自分の考え・主張が正しいと譲らない頑なな性癖などです。若くして軍隊に身を置けば世間のことを知る機会が無く、勇敢さが逆に自分は正しいと思わせてしまうこともあるでしょう。軍隊経験のないある男に海兵隊出身者の「他人の云うことに耳を傾けない傾向」について話しましたら、「海兵隊出身なんだから、仕方がないよ」と云っていました。つまり、「海兵隊」というものはそういうものなんですね。私の印象はアメリカ人一般の判断に近かったわけです。というわけで、徹底してRobert Duvallを描いたら、苛々の極という映画になってしまうでしょう。誰も喜んでくれません。妻と息子がRobert Duvallをサポートする部分があるので、辛うじて“ヒューマンな”映画になっているわけです。

本物の"Great Santini"は映画の息子が願ったようにはあっさり死なず、33年の軍役の後も24年も世にはびこりました:-)。原作となった小説が発表される前に、既に母親は離婚を決意していたそうです。四人の息子、二人の娘がいても、この海兵隊魂の塊(かたまり)には愛想が尽きたのでしょう。父親は小説を嫌いました。しかし、この映画が企画された時にはもう諦めたのか、「John Wayne(ジョン・ウェイン)しか俺を演じられる俳優はいない。彼がこの世にいないのは残念至極」と云ったそうです。また、Robert DuvallとMichael O'Keefeが揃ってアカデミー賞にノミネートされた時、アトランタのアパートから息子の家に駆けつけ「おい、昨夜俺たちはアカデミー賞にノミネートされたぞ1」と叫んだとか。

この父は大腸ガンで1998年に亡くなりましたが、弱音も吐かず、泣きもせず、静かにこの世を去ったそうです。

原作者Pat Conroyが新聞に語ったところによれば、彼は本当にこの父が嫌いだったそうですが、本が出てから「何と凄い父を持ったことか」と感じたそうです。海兵隊の同僚などが揃って抗議したのでしょうか?この息子が書いた弔辞が、あるウェブサイトに載っています。内容のある、エンターテイニングな、素晴らしい弔辞です。

http://www.usna63.org/tradition/history/Eulogy_Conroy.htm

or (内容は同じ)

http://www.skyhawk.org/2D/tinsanti.htm

(June 07, 2002)





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