[Poison] Rosewood
『ローズウッド』

【Part 2】

「黒人に強姦されたという虚偽の訴え」というと、'To Kill a Mockingbird'『アラバマ物語』もそうでした。あちらはその訴えが事実かどうかが争点でしたが、こちらでは女中二人が事実を知っていました。後には、町の誰もが若妻の浮気を知っていて、“知らぬは亭主ばかりなり”だったことがあからさまになります。浮気と男の暴力、女の嘘が大虐殺にまで発展し、黒人コミュニティが消失する結果を招くのです。『アラバマ物語』の数十倍、数百倍無惨です。

若妻が痛めつけられている時、老いた女中が若い女中に「行くな!」と制止します。関わりになるなという意味です。シェリフが「暴漢を見たか?」と聞いた時、この老いた女中は「何にも見てねえ」と答えます。白人のやることに関わってロクなとが無いという経験から来たものでしょう。哀しい、現実的な処世術です。この時に、仮に事実を喋ったとしても、やはり彼女は撃たれる運命にあったことでしょう。彼女の台詞の一つに、"Nigger is just another word for guilty."(黒ん坊とは有罪の代名詞なんだわさ)というのがあります。

Ving Rhamesは'Shane'『シェーン』のように格好良いのですが、シェーンのように揉め事を片付けるのではなく、木枯らし紋次郎的に「あっしには関わりないことでござんす」とか云って消えちゃいます。「あれあれ?」です。しかし、ちゃんと帰って来て黒人の子供たちを救い出す活躍を始めます。あまりにも格好良いこの人物はフィクションで追加された人物です(Jon Voightが演じた人物は実在)。Ving Rhamesは、若い女教師Elise Nealと恋仲になるには、いささかトウが立ち過ぎている印象なのが欠点。

何といっても、Ving Rhamesが一旦縛り首になるシーンが凄い。彼の馬が素晴らしくて、主人が首に縄を巻きつけられた時、シェリフに尻を叩かれても駆け出さないのです。人や動物を殺すのを何とも思わない白人が、「んじゃ、馬を打つベ」と鉄砲を構えた時、「自分は死んでも、馬は助ける」という男気で、Ving Rhamesが「進め!」と馬に号令します。自動的に彼は宙にブラ下がり死ぬのを待つだけになります。しかし、この人はそう簡単に死なないんですねえ。暴徒の目がよそを向いている間に、縄を切って逃げ出します。縛り首になった男が生き延びて逃げ出すという超人的行動が凄い。そう云えば、映画の最初の方で彼の首に傷があるのを見せていました。彼は何度も縛り首になった経験があるようです:-)。

この映画に出て来る差別主義者たちはひどい。シェリフが止めているのに、勝手にどんどん撃ちまくり、黒人を虫けらのように殺します。縛り首になった黒人の耳を切ったりもします。特に髭もじゃの太った男は過激で、まだ少年である息子を差別主義者に育てようとしています。少年に縛り首の縄の作り方を教えたり、虐殺してゴミのように捨てられた黒人達をわざわざ見せたりします。この少年は、親父の残虐さに愛想が尽きて、映画の最後で父を捨て、一人で家を出て行きます。映画製作者たちのメッセージ(というか期待)なのでしょうが、こんな勇敢な子供がいるだろうか?という気はします。

Jon Voightは、初めは悪どい商売人のように描かれていますが、次第に差別主義者達の暴力を嫌悪するようになって小規模ながら'Schindler's List'『シンドラーのリスト』的活動を始めます。冒頭で黒人女性と交わっていることが象徴するように、彼には人種的偏見はあまりありません。それがシンドラー化への一歩です。

分らないのはJon Voightの奥さんです。一人目の黒人が家に来て助けを求めた時に、「黒人と一緒には住めないわ!」と旦那に抗議します。次の黒人が来た時、旦那が「駄目だ」と断っている際に、「入りなさい」と180度転換します。何故なのか、理由がうまく描かれていません。旦那の留守中、暴徒が家を調べようとやって来ますが、この奥さんはショットガンを構えて、男どもを撃退します。Jon Voightが大列車作戦で黒人の子供たちを助けたあと帰宅して、息子たちに「何があったんだ」と聞きます。長男が「ママがみんなを脅したの」という報告をします。このテは'Friendly Persuasion'『友情ある説得』にもありました。この映画の脚本家は、過去の映画を実によく研究しているようです。ここの「ママがみんなを脅したの」という台詞には二重の意味があります。Jon Voightは妻がそこまで勇敢に黒人のために行動したことを知り感激します。また、継母に冷たかった息子たちが継母の行動を見て尊敬し、“ママ”と認知したことも意味しているわけです。彼女が複雑な表情で喜んでいるのは、「これで家族の一員になれた」と実感しているからです。

音楽はJohn Williams(あのジョン・ウィリアムズ)ですが、あまり印象に残りません。

なお、色々な文献を読むと、映画が事実と違う要素はいくつかあり、その最大の点は殺された黒人の数だそうです。生存者が散りじりバラバラの関係上、正確な数字は分らないようですが、少なくて8人、多くて20人というところだそうです。また、二つの町の貧富の差は映画ほど極端ではなかった、シェリフが暴徒をリードした事実はなかった…なども指摘されています。

(April 24, 2001)





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