[Poison]

The Rosa Parks Story
『ローザ・パークス物語』


【Part 2】

これまで、他の映画では軽く扱われて来たRosa Parksなので、やっとこの映画で歴史的1955年12月1日のディテールが分りました。何という偶然か、1942年に彼女を雨の中に置き去りにした運転手が、この日も彼女を警察に突き出したのだそうです。彼が少しでも温厚であったら、アメリカの公民権運動は相当遅れたことでしょう。そういう意味では、彼の行動が重要なターニング・ポイントになったわけです。

その運転手も嫌味ですが、選挙権登録の受付係の女性はもっと嫌味です。このテの映画では黒人をいびる白人が不可欠ですが、役者さんたちはよくやりますね。非常にリアルで憎たらしい。

'Freedom Song'もDanny Glover(ダニィ・グローヴァー)が制作・主演でしたが、このAngela Bassettも制作・主演。こうした黒人俳優たちの使命感には圧倒されます。金儲けだけでなく、キチンと云いたいことを云うためにお金を遣っています。見上げた心意気です。

Angela Bassettが女学生を演じるというのはちと無理がありますが、それでも初々しい青春の表情を巧みに演じて年齢をカヴァーしています。常に夫の意思・意見を立て、決して独走する女性ではなかったという人格として描かれています。一見綺麗ごとのようですが、封建的で旧弊な南部という環境では、こうした夫唱婦随の態度は珍しくありません。物分かりの良い夫の考え方の方が、南部としては珍しい。その彼にしても、自分だけのための存在だった妻がどんどん公共的存在に変貌することに悩むあたり、非常にリアリティがあります。

その夫がラストで黒人一般市民たちの運動への草の根的サポートに感動し、妻への尊敬と愛を回復する場面があります。彼の考えを変えハッピー・エンドを目指すための脚本家の"tour de force"(力業)であることは自明ですが、黒人市民たちの態度が自然に描かれているので、清々しく仕上がっています。特に、終始後ろ向きで語る老人の描き方は上手いと思いました。

バス・ボイコット運動についての詳しい描写や勝利(バスの人種差別は違憲という最高裁判決)の瞬間などは無く、やや物足りない思いを禁じ得ません。しかし、この映画はアラバマの人種問題を描く物語ではなく、題名が示すようにRosa Parksの個人的物語なのだと割り切らないといけません。

最後にクリントン大統領が国会議事堂前でRosa Parksを国民に紹介する実写が登場します。老いて縮こまってしまったRosa Parksですが、公民権運動の「母」としてあたたかい拍手を浴びます。なお、キング牧師は公民権運動の「父」と呼ばれています。Rosa Parksがスタートさせた、この非暴力的運動がいかに歴史的快挙であったかの証左です。

意外だったのは、この出来事の背景となった州都Montgomeryが全面的にこの撮影に協力していることです。さらに番組の中のCMで何度か「公民権運動のふるさとMontgomery」として、史跡を初め公民権運動博物館への観光旅行を呼びかけるメッセージが流されました。町の罪深い過去を反省し、贖罪への道を歩んでいることが見てとれます。この変貌もなかなか素晴らしいと思います。

(February 24, 2002)


【参照】公民権運動・史跡めぐり「Montgomey(アラバマ州)のバス・ボイコット」




Copyright 2002-2011    高野英二   (Studio BE)
Address: Eiji Takano, 421 Willow Ridge Drive #26, Meridian, MS 39301, U.S.A.