[Poison] The River
『ザ・リバー』

【Part 2】

「農民の洪水との闘いの物語」と云いましたが、実は中盤のほとんどはスト破りのお話。製鉄所に野生の子鹿が舞い込み、臨時工員達全員が鹿を生け捕りにしようと集まります。実は製鉄所かどうかよく分らないのですが、そんな風に見えるので勝手に決めてしまいました。本当に製鉄所なら、工員達が持ち場を離れたりしたら大変なことになる筈です。結局大勢が子鹿を取り囲み、恐怖のあまり子鹿はおしっこを漏らしてしまいます。臨時工員達は子鹿が哀れになって、囲みを解き草原に帰してやります。

ストが解決すると臨時工は不要なので、すぐさまクビになります。現金なもので、会社側は町へのトラックを出さず、「歩いて帰れ」と云います。門前には先程までピケを張っていた正規の工員たちとその家族が待ち構えています。お払い箱になったスト破り要員を、群衆が取り囲みます。臨時工員達は子鹿と同じ状況におかれます。正規工員や家族から唾を吐きかけられながら、袋叩きになる恐怖に怯えつつ歩まなくてはなりません。

'How Green Was My Valley'『わが谷は緑なりき』(1941)や、最近の'Billy Elliot'『リトル・ダンサー』(2000)でも炭鉱のスト破りが描かれます。しかし、それらは組合員と非組合員の衝突であり、どちらも正規の炭坑夫です。『ザ・リバー』におけるスト破りは食い詰めた農民達によるものなので、正規の工員や家族がこうまで敵意を示すのは異常だと思います。スト破りを雇った会社側を怨むべきでしょう。この場面が非常に意味ありげに大袈裟に描かれていますが、これは演出過剰です。

そもそも、農民に製鉄の仕事なんか勤まるのでしょうか?非常に危険な仕事であり、熟練していないと出来ない筈です。指導者も無しで働いているのが不思議です。

ラストで再び洪水が起ります。前年の洪水の後、何のテも打たれていなかったのでしょうか?泥縄の日本の地方自治体だって、堤防の補修ぐらいしますから、二年続けて洪水ということは無いと思います。この映画の舞台はダム建設予定地ということで、Scott Glennが上院議員を丸め込んでいますから、それで補修されなかったのでしょうか?

そうだとしても、農民達が懸命に堤防補強に努めているところへ、Scott Glennが貧しい人間数十人を雇って堤防破壊に向うというのは尋常じゃありません。昔の東映仁侠映画の悪党のように馬鹿げた所業です。ダム建設という名分はあっても、堤防破壊は犯罪ではありませんか。Mel GibsonがScott Glennを撃ち殺しても無罪で済むでしょう。

Scott Glennに金で雇われた連中は、「俺たちは飢えてるんだ!」と飢えていれば犯罪も冒すという意気込みですが、南部の田舎者にしても随分馬鹿げています。

その一人が堤防を破壊しますが、Mel Gibsonが黙って砂袋を積み上げ始め、彼の家族、農民一同が加わって必死の作業が始まると、飢えて金に目が眩んだ筈の連中まで感動して手伝います。これまた東映仁侠映画みたい。

仕上げはScott Glennで、「俺は諦めないぜ」とか云いつつ彼まで砂袋を一個積み上げたりします。

これで「感動の大作」を作ったつもりなら、「いい加減にしろ!」と云いたい。いくら1984の映画でも、コンセプトが古く安っぽい。

(July 06, 2001)





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