[Poison]

The Reivers

『華麗なる週末』

【Part 2】

御者は黒人ですが、実は少年の曾祖父(白人)が黒人女性との間に設けた混血です。そういうこともあって、主人と同じ姓を名乗り、黒人らしくなくふてぶてしく世の中を渡っています。しかし、それにしても死んでも弁償出来ないような高価な自動車を勝手に運転するというのは異常です。

Steve McQueenにしても、10歳の頃から世話になっている家のボス(少年の祖父)が「留守中、車を動かすな」と命じたのに動かします。口実として少年を同行させるわけですが、責任が彼にあることは明白です。どうして、こうも向こう見ずなのでしょう。娼婦Corrieに会いたかったからというのは分りますが、車の値段は彼が一生働いても返せない額の筈です。払えなければブタ箱行きかも知れません。無茶苦茶です。

御者の男は後にふてぶてしいというより、無節操な行動に走ります。車と馬を交換しておいて、競馬で車を取り戻すと云うのです。他人(主人)の持ち物を勝手に交換するのも問題ですが、馬と交換するなんてどういう了簡なんでしょう。こんなことをしなければ、競馬に勝つ必要もなく「全て世はことも無し」だったのです。この男が諸事にわたって問題を作り出しています。何で、こんな脳足りんに振り回される話がピューリッツアー賞なのか、理解に苦しみます。

ところでタイトルの'The Reivers'ですが、"reive"は辞書によれば「【スコットランド・北イングランド】RAID」とあります。'Raiders of the Lost Ark'『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』の"raid"ですね。「奪(と)ってはいけないものを盗む」という意味で、"Reaver"と同じ言葉のようです。どうやら、作者とナレーション(老人となった少年)は、映画の主人公達は泥棒であると認めているようです。こっそり車を“拝借”して旅行を堪能した後、何食わぬ顔で元に戻すというこすい方法ではないわけです。それなら彼等の無茶苦茶も解りますが、だとすれば少年を巻き添えにしたりせず、大人だけで敢行すれば済んだ筈です。依然として、謎は残ります。

これが「大人の世界への第一歩を踏み出した少年の冒険譚」とすれば、上のような常識的思いなしは不要になります。少年版『ファウスト』ですね。そういう意味では、よく出来た話です。初めての自動車運転、大きな町への旅、“綺麗なおねえさん”への淡い慕情、裸体画の研究、都会っ子との取っ組み合い、シェリフの脅威、草競馬等々、11歳の初体験としては数日眠れなくても仕方がないほどの興奮が詰まった四日間です。

事実、Steve McQueenは看板俳優ではありますが、少年に主役を譲って控え目です。クライマックスの草競馬にも騎乗せず応援するだけ。これは“文芸映画”であって、いつものSteve McQueen映画ではないのです。残念ながら、Steve McQueenでなければならない理由もありません。ボスの車を無断で(数日!)使うという不敵な行動が取れる顔つきであれば、誰でもいいような役柄です。

(April 14, 2001)





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