[Poison] The Reaping
『リーピング』

【Part 2】

この映画(DVD)で感心したのは、オープニングの神父の遺体の奇跡的保存状態と産業廃棄物との関連のアイデアが一つ。もう一つはおまけでついている『十の災厄への科学的アプローチ』という感じのドキュメンタリーです。後者は数人の学者たちが旧約聖書の記述を科学的に説明するもので、九つまでは説得力がある説明が聞けます。残念ながら十番目の「長子(第一子)の死」に関する説明だけは納得出来ませんが。

その学者たちの説明は、映画の中でHilary Swankがまくしたてる科学的説明と全く同じものです。ただし、学者たちはイタリアの火山の噴火などとの関連を詳しく語るのが異なる点。ですから、Hilary Swankの説は全くの出任せではありません。

ここまではいいのですが、Hilary Swankに神と悪魔の闘いを説明する神父の論拠は疑わしいものです。画面上、彼は古文書から得た情報を喋っているように見えますが、その古文書のタイトルも著者も明らかにされないので、単に小道具部門がでっち上げた本を“引用”しているようにしか思えません。

また、いかにアフリカでも、現代のスーダンで旱魃の責任を布教活動に来ている家族になすりつけ、挙げ句は神への生け贄として殺してしまうなんてことがあるでしょうか?こんな嘘っぽい状況を作らなくても、科学者で宗教を信じない人は沢山いると思われます。妙チキリンなスーダンの話をでっち上げるより、ストレートにHilary Swankをバリバリの科学者で無神論者として登場させた方が数段スマートだったでしょう。

この映画の欠点はHilary Swankの良さが全く出ていないということです。Ashley Judd(アシュリイ・ジャッド)であろうが、Angelina Jolie(アンジェリーナ・ジョリー)であろうが、誰でもいいのです。「オスカーを二つも取った女優が、何でこんな映画に?」という声は封切りの頃から聞かれました。私の推測ですが、彼女は単純にお金が欲しかったのだと思います。この映画以降、彼女は数本の映画のプロデューサーとなっています。'Beautiful Ohio'(共同製作、2006)、'Freedom Writers'『フリーダム・ライターズ』(共同製作統括・主演、2007)、'The Laws of Motion'(共同製作・主演、2008公開予定)、'Labyrinth'(共同製作・主演、2008公開予定)という具合。つまり、自分が作りたい(出たい)映画を作るために金を稼ぎたかった。だから、これはどんな映画でも良かったのでしょう。

黒人助手Idris Elbaの存在も疑問です。彼には終始重要な役目はないので、「あ、この人は殺され役だな」と分ってしまいます。そういう役は映画には珍しくないのですが、彼の唯一と云っていい見せ場で彼が語るのは、若い頃不良で犯罪者で、射ったり射たれたりしていたという荒っぽい過去です。そういう人物が科学調査の助手を務めているというのは珍しい(というか奇跡)ですが、そういう過去が物語に何の影響も効果も与えないのです。単に「こんな人物ってそういねえだろ」と脚本家たちが無責任に作り上げたような感じ。ただし、作りっ放しで、魂を入れるのを忘れたようです。

この映画の結末に関連する重要なシーンについて。【スポイラー警報発令!】地元教師David Morrisseyの家に泊まったHilary Swankは、夜半に木立の蔭にまたたく灯りを見て、好奇心から近寄って行く。そこには七年前男の子を出産する前に亡くなった彼の妻の墓があった。彼女も自分が娘を失ったスーダンの事件を話す。二人は、お互いに悲しい過去があることを知る。で、その後、この二人の俳優自身なのかスタンドインなのかよく分らないような激しいベッド・シーンが続く。「エーッ?」と思いますわな。二人が共にセックスするような心理になっているとは到底思えない段階だからです(会って二日目)。恋愛感情の描写も皆無。次のカットでHilary Swankが一人ベッドでハッと目覚めます。こちらは「そうか、あれは幻覚だったんだな。それなら許せる」と思います。事実、この映画には幻想・幻覚がやたら出て来るので、観客はそれに慣らされているのです。ところが、映画の最後で彼女は妊娠していることが分ります。あのベッド・シーンは幻覚ではなかったのです!

私はこの点について、二つの文句があります。一つは明らかに観客に幻覚と思わせた演出・編集です。もう一つは、脚本家が「単純なハッピーエンドにしなかったもんね。捻ったもんね」と鼻を蠢かしているのを感じる点です。捻ったというより、「この映画がヒットすれば、Hilary Swankから生まれる悪魔の子の話で'Reaping 2'が作れる」という皮算用が見え見えです。'Venom'『ヴェノム 毒蛇男の恐怖』(2005)のラストと全く同じ手口。まともな一本目も作れないで二本目なんか考えるなってえの、ったく。

このPart 2の冒頭で「この映画(DVD)で感心したのは、オープニングとおまけの学者たちの説明」と書きました。事前に「旧約聖書の十の災厄」を知らなかった者としては、この学者たちの話の方が映画よりもずっと面白いものでした。

(November 07, 2007)





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