[Poison]

Raintree County

『愛情の花咲く樹』

【Part 2】

結婚して南部に向う蒸気船の中で、Elizabeth Taylorは「一滴でも黒人の血が混じっていれば、その人間は100%黒人なのよ」と云います。これは'Show Boat'『ショウ・ボート』にも出て来たテーマで、別に珍しくありません。ついで、彼女の人形のコレクションが紹介されますが、彼女が幼かった時から大事にして来たものは、半分白人、半分黒人の顔の人形です。これなら、どんな馬鹿な観客でも彼女の精神不安定な理由の見当がつきます。それをあと二時間もかけて謎の解明をしようとするのですから驚きです。焼けた生家、両親の不和、黒人の美しい乳母の存在が語られますが、これでもMontgomery Cliftには解らないのです。このヒトは頭が悪いです:-)。

そもそも「このカウンティのどこかにゴールデン・レインツリーがある」と云われて、いきなり手近の湿地に入って行くというのも馬鹿げています。カウンティは広く、湿地だけだって調査に数週間かかりそうです。それを、いきなりじゃばじゃば入って行くんですから。やはり、頭が悪いのでしょうねえ。

Elizabeth Taylorが子供を連れてジョージア州に去った後、彼女の後を追うためMontgomery Cliftは急遽北軍に身を投じます。軍隊と一緒でないと南部へは行けないからです。しかし、南部といったって広大です。彼の所属した連隊がジョージアに向うという保証はありません。ミシシッピかルイジアナで釘付けになる恐れもあります。個人的理由でジョージアへ行けるものでもないでしょう、観光旅行じゃないんですから。

結局、レインツリー探しはどこかへ行ってしまいます。彼は「君がいれば幸せだ」と加山雄三みたいな台詞でレインツリーのことは忘れてしまいます。

南北戦争が終り、リンカーンの後継者が必要になります。で、Montgomery Cliftに「あなたが出馬しろ」という人が出て来ます。本が好きで国語の先生をやっている人間、特技といえば駆けっこだけ(後は描かれないので分らない)の人間に大統領になれと云うんですから凄い。さすがに、Montgomery Cliftは首を横に振ります。ところが、これを漏れ聞いたElizabeth Taylorは「大統領候補に黒人の血が混じった妻はまずい」と勝手に考え、身を隠す決意をします。息子への別れの言葉は「私はレインツリーを探してパパに上げるの」です。そして、湿地の奥深くに入って死んでしまいます。夫が大統領のタマかどうかぐらい分りそうなものでしょうにねえ。このヒトも頭が悪い。

で、エンディングではネクストバッターズ・サークルでずっと待っていたEva Marie Saintが、やっとMontgomery Cliftを手に入れることを暗示して映画が終ります。安易ですなあ。

しかし、スワンプ(湿地)にせよ戦場場面にせよ、すべての場面が美しい。それが絵空事のような雰囲気を醸し出すと云えばそうですが、もともと絵空事なんですからいいんじゃないでしょうか。

ただ、こういう話が伝わっています。この映画の封切りはインディアナ州のある町に主なキャストおよびスタッフと原作者の未亡人の一家とその親戚・友人達を招き、待ちかねた一般観客を含めて盛大に行なわれました。上映終了後、満場の観客からは拍手が全く起らなかったそうです。地元でさえこうですから、他は推して知るべしです。

私が初めてアメリカを訪れ、ミシシッピ州のメキシコ湾岸のリゾートのB&B(ベッド・アンド・ブレックファースト)に泊まった時のことです。私はこの『愛情の花咲く樹』は南部の映画だと思い込んでいて(インディアナ州が主な舞台だとは知らなかった)、宿の主人に「この辺でレインツリーは見られますか?」と聞いたのです。主人は「それはもっと北の方へ行かないと見られない」と答えました。彼の答えは映画に関しては正しいのですが、レインツリーが「中南米、フロリダなどの熱帯性気候のもとで見られる」という事実に即していません。正しくは「もっと南の方へ行かないと見られない」と云うべきだったのです。それほど、レインツリーなんて誰も関心を抱いていないと云っていいようです:-)。

(March 17, 2002)





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