[Poison] Pretty Baby
『プリティ・ベビー』

【Part 2】

以前、この映画を観た時はKeith Carradineが貧相な顔の暗い男に見えて、それが邪魔でした。今回は'Nashville'『ナッシュヴィル』の女たらしのC&Wシンガー、'Southern Comfort'『サザン・コンフォート/ブラボー小隊 恐怖の脱出』のインテリ兵士などを観た後でしたので、大分印象が違いました。'Lolita'『ロリータ』(1997)と違って、こちらのKeith Carradineは元もとはロリコンではなく、Brooke Shieldsがモーションをかけて行く内に、次第に彼女を愛し始めます。

しかも12歳の少女と正式に結婚しちゃうというのが凄い(Brooke Shields当人は当時13歳)。母親が行方知れずなのと、何人もの娼婦たちが証人になったので神父も認めたのでしょうが、普通は親権者の許可が無いと駄目でしょうけどね。神父が「あなたの母親はcaucasian(白人)か、それとも別か?」と聞くと、Brooke Shieldsは"caucasian"という言葉が分らず「母は"whore"(娼婦)です、神父さん」と答えるのが可笑しい。

Brooke ShieldsはKeith Carradineに甘い言葉を並べ立てて、「娼婦のような喋り方をするな」とたしなめられます。彼女は「あなたは娼婦が好きなんじゃないの?」と問い返します。確かに、娼婦の写真が撮りたくて娼館に出入りするようになったわけですから、これには反論出来ません。一本参ったというところでしょう。

最後に夫の成功によって裕福な生活をしているSusan Sarandonが、Brooke Shieldsを引き取りにやって来ます。「我々は結婚したんだ」というKeith Carradineの言葉は完全に無視されます。Susan Sarandonの夫は「彼女に教育を受けさせるんだ」と宣言します。彼女の教育については関心が無かったKeith Carradineは、それがBrooke Shieldsの幸福のためだと納得し、彼女を諦めます。

というわけで、泣いたり喚いたり、Brooke Shieldsを引っ張り合うような愁嘆場はありません。『ロリータ』よりはずっと大人の感覚の結末ですが、尻切れトンボという感じも否めません。

母親が娘を迎えに来るのは人情で、その旦那が熱心に支援するというのも心暖まる話です。問題はKeith Carradineがどの程度Brooke Shieldsを愛していたのかが分らないことです。『ロリータ』(1997)ではJeremy Irons(ジェレミー・アイアンズ)がLolitaの全てを愛している様が十分に描かれていました。Keith Carradineの場合、結婚はするものの、どこまで愛しているかは曖昧です。単に憐愍の情とも取れるし、幼く我が侭な彼女に往々にして腹を立てることが多いようです。ですから、実母によって二人の間を切り裂かれる悲しみが高まらず、Brooke Shieldsを諦める高邁な精神も我々の心に響きません。

前述のように、この映画を(多分TVで)観たことはあるのですが、「下らない」という印象以外何も残っていませんでした。ストーリィも丸で忘れていました。私の脳はキャパシティが無いようで、不要なデータはどんどん消えて行くのです:-)。

そもそも監督Louis Malleがなんでこんな話を映画にしようと思ったのか、大きな疑問です。この人らしい才気も情熱も感じられません。登場人物のどれにも感情移入出来ず、誰がどうなろうと知ったこっちゃない…という気にさせられます。際物的作品ですね。

こういう辛気臭い映画の後は、無性にJohn Ford(ジョン・フォード)や黒澤 明の骨太、単純明快、爽快な映画が恋しくなります。

(June 07, 2001)





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