【Part 2】

何故、George Gershwin財団がこの映画に不満かということは色々取り沙汰されています。一つは当初予定されていた監督Rouben Mamoulian（ルーベン・マムーリアン）をMGMがクビにしたこと。彼は舞台のオペラを演出した人で、George Gershwin側の信頼が篤かったと云えます。もう一つは、映画があまりにも原作からかけ離れてしまったこと。原作オペラには白人も出て来るのですが、彼等は台詞を喋るだけで歌いません。黒人だけが歌う。それがGeorge Gershwinの狙いの一つだったのに映画は白人を登場させなかった、ということもあるようです。

しかし、Rouben Mamoulianという人がクビになったのは、この映画だけではありません。'Cleopatra'『クレオパトラ』(1963) でもクビになり、Joseph L. Mankiewicz（ジョゼフ・マンキウィッツ）に置き換えられています。

この映画は「黒人しか登場しない」とよく云われるのですが、警部を演じたClaude Akins（クロード・エイキンズ）は白人です。彼は'Rio Bravo'『リオ・ブラボー』における事件の発端を作った悪役で知られています。ずっと牢に閉じ込められ、後にDean Martin（ディーン・マーティン）と捕虜交換の材料になる男。何故彼でなければいけないのか分りませんが、ここでは黒いドーランを塗って演じているわけです。

Sammy Davis Jr.の歌はこの映画の中では'It ain't necessarily so'が有名。しかし、当時の専属契約の都合で、映画のサントラ盤に彼は登場出来ませんでした。したがって、彼の役だけ別人が歌うという、不思議な“サントラ盤”が出来たそうです。

なお、お気付きとは思いますが、主役級の歌のほとんどは吹き替えです。

Porgy: Robert McFerrin
Bess: Adele Addison
Clara: Loulie Jean Norman
Serena: Inez Matthews

「でも、Clara役のDiahann Carrolは歌手じゃないの？」という方は鋭い。そうなのですが、彼女は'Summertime'が歌えない声域なのだそうで。純粋に俳優として採用されたようです。

オペラやミュージカルの筋に整合性やリアリティを望むのは欲張りすぎでしょう。ですから、あまり突っ込んだことは書きません。しかし、一点だけ。Porgyは揉みあううちに手前のナイフで死んだCrownの死体検分に呼ばれます。BessはあたかもPorgyが逮捕されたかのように嘆きます。彼女に惚れているSammy Davis Jr.は、これ幸いと「Porgyは三年ぐらい帰って来ないだろう。俺と一緒にニューヨークへ行こうじゃないか」と誘惑します。で、Bessはニューヨークへ行っちゃうんですね。“子供騙し”という言葉がありますが、いい年こいたBessがそんな“子供騙し”に乗るというのは驚きです。当時の黒人たちのほとんどは教育も受けず文盲だったかも知れませんが、死体検分と逮捕の区別ぐらい付きそうなものです。事実、あの程度に愚かだったのか、この原作が黒人の知能を馬鹿にした扱いなのか、知りたいところです。

終幕、Porgyは不自由な足にもめげず、Bessを追ってニューヨークへの旅に出ます。山羊の曳く車でです。「その意気やよし」ですが、一体どこまで行けるものやら。この結末はやや唐突で拍手いたしかねる感じです。

私はもうかなり長い間、この映画のことを忘れていました。この『“南部もの”大全集』が網羅すべき映画として再認識しなければ、死ぬまで忘れていたでしょう。理想的キャスト、リッチな色彩、素晴らしいセット、それらにも関わらずこの映画は重苦しく、しかも唐突に終ってしまうので、それで私はあまり評価しなかったのだと思います。

なお、この映画のタイトルにデザイナーSaul Bassは参加していません。ミュージカル映画'West Side Story'『ウエストサイド物語』で見事なタイトル（特にエンド・タイトル）を見せてくれたSaul Bassですから、多分ここでもいい仕事をしたと思うのですが…。使われたのは何の変哲も無い、ただの名前の連続でした。これも評価出来ない要因です。

amazon.comのヴィデオ・ショップの読者投稿を読むと（2000年5月の記事）「Sidney Poitierの本のサイン会で、この映画について尋ねた。彼は来月にはDVDが出ると云った」とあり、amazon.comはDVDの予約を受け付けています。果たしてこれは実現するのでしょうか？

(July 25, 2001)