[Poison] Point of No Return
『アサシン』

【Part 2】

Bridget Fondaの役が溺愛するNina Simone(ニナ・シモン)は、ジャズ、ソウル、フォーク、R&B、ゴスペルなどの歌手です。この映画のBridget Fondaの役柄は、母親(映画には出て来ません)が愛していたNina Simoneの歌を聞いて母親を懐かしがります。DVDの解説によれば、物語の場面設定とBridget Fondaの心理に合わせてNina Simoneの曲(曲調)が選ばれているそうですが、私にはそこまで深くは聴き取れませんでした。

ニューオーリンズ場面の見せ場は、ルーム・サーヴィスが届くまで二人がセックスしようとすると、電話で第二の暗殺指令が下るところ。「浴室へ行け」と云われ、Bridget FondaはDermot Mulroneyをベッドに残して浴室に消えます。そこには受信機とヘッドフォンのセットがあり、それによって次の指示を受けます。隠されている超高性能狙撃銃を組み立て、窓から通りに出て来る人物を狙います。ターゲットは指示があるまで分らず、彼女は神経を張りつめて指示を待ちます。この時、旅情でセンチになっているDermot Mulroneyが、浴室のドア越しに彼女に求婚し、執拗に返事を要求します。彼女は暗殺指令と求婚の両方に心を分断され、パニックに陥ります。

このシーンはとてもよく計算され、編集されていて、観ている方も彼女の心理に一体化してハラハラさせられます。しかし、暗殺の仕事に恋人を同行させるような粋な計らいをするからいけないのであって、これはプロのビジネスに相応しくありません。祭りの最中のニューオーリンズという土地で恋人同士という煙幕を張る必要はさらさらなく、彼が同行するメリットは皆無なのです。要するに、脚本上サスペンスを生み出すためだけに彼を同行させたに過ぎません。

そう云えば、第一の指令も妙です。Bridget Fondaの役目は、ある有名ホテルでウェイトレスの衣装を着用し、時限爆弾が仕掛けられたルームサーヴィスのワゴンを運ぶだけ。こんな仕事は本職のウェイトレスにやらせれば済むことで、何も特殊工作員がやる必要はありません。

第三の指令では業務遂行中に予期せぬトラブル(死体が三つ出来ちゃう)が起り、本部は「クリーナー」(清掃人)のHarvey Keitel(ハーヴェイ・カテル)を送り込んで来ます。彼はトランク二つに硫酸の大瓶のようなものを沢山入れて来て、彼自身ガードマンを殺し、死体を計四つにします。彼は手始めに浴槽に死体を二つ入れ、薬品をジャバジャバ注いで白煙を立てます。死体の一つが足を動かすと、「これはまだ死んでなかったな」と眉一つ動かさずに云います。この辺りはコーエン兄弟の映画のブラック・ユーモアに似ています。ところで、硫酸で人体を溶かそうとすれば、強烈な臭気が発生しそうですが、この映画では誰も鼻を覆ったりしません。そもそも、硫酸の必要性があるのかどうかも疑問です。ここで死んだのは、身元が分かっても一向に差し支えない連中ばかりなので(Bridget Fondaの同僚は別)、何も顔を溶かして判別不能にする必要は見当たらないのです。単に「クリーナー」の残虐さを印象づけるためのようです。

最後のHarvey Keitelとの死闘ですが、Harvey Keitelは何も車を運転しながらBridget Fondaを殺す気にならなくてもいいと思います。「もう我慢出来ねえ」とか云って、立ちションするフリでもして車外に出、ゆっくり拳銃を抜きながら後ろからズドンとやればいいのです。ここのHarvey Keitelは焦り過ぎたようで、プロとして失格です。ま、彼が立派に仕事を達成すればBridget Fondaは死んでしまうわけで、崖っぷちの車の下の格闘もなくなってしまいます。では、どうしたらいいのか?それを考えるのが、高額の脚本料を貰うライターの仕事であり、私の仕事ではありません。私はいちゃもんをつけるだけ:-)。

(April 13, 2007)





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