[Poison] Places in the Heart
『プレイス・イン・ザ・ハート』

【Part 2】

この映画が次のような興味で厭きさせないのは間違いのないところです。
1) Sally Fieldは綿花栽培に成功し、無事経済的難局を乗り切れるのか?
2) 彼女の義兄Ed Harrisの不倫はどうSally Fieldと絡んで来るのか?

しかし、Ed Harrisの不倫はSally Fieldと全く無関係なのです。彼女はそういう出来事も知らず、姉の相談に乗ることさえもありません。この映画が題名のように"Places" を描いたものだと割り切れば、二つの筋や三つの筋があってもいいのですが、健気な Sally Fieldの物語だと思っていると、このEd Harrisの筋が彼女に絡んで来ないのが不満です。「アカデミー脚本賞」というのは、ちと誉めすぎではないでしょうか?

細かい部分では、確かに「上手い!」と思わせる脚本、演出ではあります。盲目のJohn Malkovichが、入浴中のSally Fieldの部屋に怒鳴り込むシーンの緊張感と可笑しさ、冒頭で刑事の夫の拳銃の置場所を見せ、後にJohn Malkovichの発砲シーンへの伏線としたこと、John Malkovichが盲目ゆえK.K.K.のメンバーを声で識別してしまい、K.K.K.があたふたと逃げ去るシーンなど。

また、Sally Fieldの姉が夫の浮気に気付く、たった一つの瞬間的アクション、Ed Harrisが妻が真実を悟ったことを知る一つのアクションなど。この辺の機微が解るのは大人の観客だけでしょう。いい演出です。

Ed Harrisの不倫の相手は去り、妻は彼のダンスへの誘いに応じることで、元の鞘に納まることが暗示されます。K.K.K.に脅されたDanny Gloverも去ります。逞しい労働力であり、よく気が廻るDanny Gloverを失うことはSally Fieldには痛手でしょう。

'Norma Rae'『ノーマ・レイ』(1979)の主人公が映画の中の数カ月で偉大な変貌を遂げたのと比較すると、『プレイス・イン・ザ・ハート』の主人公があまり変化しないのは残念です。演出でも、演技でも、彼女が逞しくなったという徴候を見せません(重労働で肉体は逞しくなったでしょうが)。「トラクターを買って農園を広げるのよ」というのは抱負であって、判断力、決断力のしたたかさには見えません。

大団円はアッと目を疑うような手法です。教会でパンと葡萄酒が廻されるにつれさまざまな顔が登場しますが、Danny Gloverの存在が先ず意外です。今でこそ差別撤廃で白人専用の教会というのは無くなり、黒人でも入って行けるようになりましたが、それでも白人主体の教会に黒人は絶無か一人、二人ということが珍しくありません。この当時ではそんなことはとても無理だったことでしょう。ついで、Sally Fieldの亡き夫と彼を殺害した青年(リンチで殺された)が並んで座っています。それで「ああ、これは赦しのイメージ、天国のイメージなんだな」と解ります。それならDanny Gloverが加わっていたのも自然です。ここだけこういう手法を使った点に、やや取って付けたような違和感はありますが、これまで観たことも無いようなイメージであり、一種の爽やかな感動を覚えるのを禁じ得ません。差別意識の無いクリスチャンであれば、これは法悦の境地に浸れるシーンでありましょう。

Sally Fieldが最初のアカデミー主演女優賞を得たのは『ノーマ・レイ』(1979)によってでした。『ノーマ・レイ』のエンディングで、町を去ろうとする労働組合オルガナイザーRon Leibman(ロン・リーブマン)に"I think you like me!"(あなた、私のこと好きよね!)と云います。受賞スピーチではその台詞をもじって、聴衆に"I think you like me. You really, really like me!"と云いました。五年後のこの『プレイス・イン・ザ・ハート』の時は、「何物にもまして、私は皆さんに尊敬されたかった。最初の受賞の時はそれを感じることは出来ませんでした。でも、今度は感じています。"And I can't deny the fact that you like me... right now... you like me. Thank you."」

(February 01, 2002)





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