[Poison]

Pinky

(未)

【Part 2】

“名匠”と云われるElia Kazan(イーリア・カザン)ですが、この作品はほとんど人の口に上りません。「白人も黒人も平等であるべきだ」と目覚め、強く生きようとする女性の生真面目一方のお話で、他のElia Kazanの名作群に較べると確かに含蓄がありません。

お話にリアリティがないということもあります。北部の医師TomはJeanne Crainに黒人の血が混じっていると知っても、なおも結婚を迫ります。しかし、二人の間に生まれる子供に黒い肌色が出て来る可能性は強いのです。医者ならそのくらい分りそうなものですが。まあ、北部には南部ほど強い差別意識はないにしても、地域の中である種のステータスを築き上げなくてはならない医者としては、はなはだ無謀であると云わざるを得ません。

お屋敷の女主人にしても、ホンの短い付き合いなのに家屋敷を看護婦にくれちゃうというのも、随分無茶です。

屋敷を貰ったJeanne Crainも、「自分を(白人と)偽って生きて行くべきではない」と悟るのは結構ですが、冒頭に現れた黒人医師を招き、屋敷を診療所兼看護学校にしてしまいます。これも乱暴です。家は売らないわけですからお金があるわけはありません。州か郡の援助があったのでしょうか?エンディングでJeanne Crainは、希望に胸を膨らませて大空を見上げますが、大空を見上げれば済む問題ではないっショ。ちゃんと、説明がほしいところです。

「皮膚の色にかかわらず平等」というテーマで始まった映画ですが、「黒人は黒人の地域社会に貢献する」という非常に保守的な大団円になっています。一人の混血児の数奇な運命という意味では面白くなくはありませんが、人種問題キャンペーンあるいはプロパガンダとしては弱い。ただし、それは公民権運動が成功した現在だから云えることであって、この当時としてはこうした人種差別を取り上げることそのものが“タブー”だったそうです。黒人の血が混じっている俳優が白人とラヴ・シーンは出来ないとか、いろいろ不文律もあった時代です。南部ではこの映画は上映禁止になりました。当時の社会からすれば、この映画の内容でも十分強烈だったようです。

印象に残った場面。初めてお屋敷に出向いたJeanne Crainが、いったん勝手口方向に一歩を踏み出し、考え直して逆戻りし正面玄関から入って行きます。彼女の心理状態が手に取るように分ります。名場面です。

(June 24, 2002)





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