[Poison] Ruby in Paradise
『ディープ・ジョパディー』

【Part 2】

Ashley Juddはそもそも子鹿のような童顔ですが、この映画ではまだ娘と呼べる幼さを残したような時期に見えます。顔には皺一つありません。しかし、既に25歳だったというのですから驚きです。'Kiss the Girls'『コレクター』の成熟した美しさへと開花する一歩手前の作品です。そんな美しい彼女が「平凡な女性」を演ずるというのは一寸無理があります。職を探してホテルや洋品店などを当たりますが、どこも断ります。こんな女性をカウンターに配置すれば、飾りとしてでも人気が出るでしょうに、馬鹿な経営者達です:-)。

やっと彼女が見つけたのは洗濯屋のシーツ洗濯係。ヘトヘトになる肉体労働です。シーズン・オフで泊まり客は少ない筈なのに、大量のシーツを洗っているのが妙です。同僚の中年女性は「(いくらエネルギーが無くなっても)精神まで無くさないように」と忠告します。

彼女が土産物屋に戻ることになった時に、中年女性は素直に「よかったわね」と云い、他の同僚と仕事を再開します。Ashley Juddの「見た目」で、中年女性と黒人女性がシーツと格闘している様を見せます。この人達にとっては、ずっとこの労働が続くのだ…という、哀しみに満ちた視線が素晴らしい。

この映画の撮影、編集は、いわゆる映画的完成度を目指していず、ドキュメンタリーのように作られています。ドキュメンタリーと云っても、カメラがグラグラするというような意味ではありません。普通の映画は、非の打ち所がないほど完全なフレームを構築することに専念しますが、ここでは画面から消えた人物がチラと戻って来てもNGにしていないし、編集でもそれを残しています。また、映画においては同サイズの画を繋げるというのはタブーとして忌避されますが、この映画はタブーを無視しています。例えば、男女がバイクに跨りいざ出発というカットの後、同サイズ、同アングルで二人はもう目的地に到着していることになっています。普通は何か別のカット(常識的にはバイクの走り)がインサートされるべきところです。大胆なことをけれんみ無く実行しています。

最初の男とダンスに行き、踊っているシーンとその後のベッド・シーンが何度もカットバックされるというのは面白い趣向です。ダンスが前戯となり、どうせそうなるのは分っているベッド・シーンへと最短距離で飛ぶわけです。時間の節約ですね。

レストランで生牡蛎を食べるシーンがあります。クラッカーにワサビとケチャップを塗り、生牡蛎を乗せて食べています。実は私は生牡蛎が大好き。ニューオーリンズの'Acme Oister House'(アクミ・オイスター・ハウス)では1ダース$7.00ぐらいで食べられます。冷えたビールで安い生牡蛎をバクバク食うのは最高です。但し、私はクラッカーは食べません。折角の滑らかな牡蛎の味が損なわれます。

私はパナマ・シティに行ったことはありませんが、その近くのメキシコ湾岸のリゾートには何度か行ったことがあり、まさに似たような風景と町の雰囲気は味わっています。ただし、この映画のように綺麗な夕焼けは見たことがありません。女店主の息子の部屋は高層ビルのコンドミニアムの一室です。湾岸の一帯にあるコンドは、ほとんどの部屋の持ち主がレンタルとして他所の人に貸し出しています。食料品だけ持ち込めば料理も出来るし、洗濯も出来ます。少なくとも三部屋はあり、ソファにも寝れば4〜5人は泊まれます。シーズン・オフであれば格安です。

この映画は女店主の息子が「カウンセリングを受けて、別の人間のようになって戻って来る」ということを予告します。つまり、今後Ashley Juddを悩ますことはないということをほのめかしています。花と植木の店のMikeはいい青年ですが、宗教的、人生哲学的に堅物なので、Ashley Juddが結婚するのは躊躇われるようです。彼女が将来、土産物屋二号店を任されることだけは確実のようですが、しかし全ては未知数です。淡々と始まった映画は、ハッピーエンドもなく悲劇的でもなく、さりげなく終ります。

(February 26, 2001)





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