[Poison] Paradise
『愛に翼を』

【Part 2】

この映画には沢山野生の鳥や動物が登場します。深い意味はなく、少年が住んでいる都会と自然環境に恵まれた田舎の対比という感じです。シラサギ、ブルーバード、サンショク(三色)サギ、カージナル(緋色の鳥)、オウゴンアメリカムシクイ(鮮やかな黄色の鳥)、ペリカン、リス、鹿など。どれも綺麗に撮れていてびっくりしました。フロリダ州にある国立公園Eveglades(エヴァーグレイズ)を紹介するTV番組の撮影に参加した時、私はディレクターから「これは自然ものの番組ではないので、鳥や動物は適当に撮れていればいいです」と云われたのですが、12日間の撮影期間中に十数羽の鳥を撮影し、その大半が魚やトンボなど自然界の餌を捕らえた瞬間でした。幸運もありますが、数十年そういう番組にも携わって来たから出来たことです。この映画の場合も、ドラマのカメラマンが急に監督から「鳥も撮って」と云われても無理だと思います。自然もの専門のカメラマンにでも委託したのではないでしょうか。

女性の脚本・監督にしては、男性の目を楽しませる趣向がいくつか出て来ます。Part 1で「許せる範囲の思慮の足りない演出」と書いたのは、そういう部分に関連しています。オマせな少女Thora Birchが「あたしの姉が見たい?服を着てないとき」と少年を誘います。何故か彼女の姉は素っ裸でアイロン掛けをしているのです。いくら夏のサウス・キャロライナでも、これはないと思います。もう一つは、少女の案内でその姉がどこかの納屋で男とセックスしているのを、少年・少女が覗くシーン。ここでは上から覗くために延々と二人が移動するのですが、いくら足音を忍ばせても納屋の階段や床は音を立てるだろうし、大体あんなに長く歩かせる必要があっただろうか?と思います。演出と編集の両方のミスでしょう。

上のようにセクシーなシーンがあると、10歳と9歳の子供二人もキスぐらいしてみたくなって当然でしょう。しかし、それはありません。最後に少年・少女が別れる際も、少女が少年の頬っぺたにチュッとキスしてもいい筈なのに、ただ抱擁するだけ。この脚本家はちとバランス感覚に欠けているように見えます。

少女Thora Birchの奔放ないたずらは際限がなく、墓地の大木の上に登って、下で追悼の祈りを捧げる牧師と数名の婦人たちにミミズを投げたりします。牧師の聖書や袖、婦人たちの帽子に次々と降って来るミミズ。このシーンは意想外ではあっても全然面白くなく、馬鹿馬鹿しいとさえ云えます。普通、何かが降ってくれば誰しも空を見上げる筈なのに、この牧師も婦人たちも誰も空を見上げません(見上げれば、少年・少女が見える筈なのに)。牧師と婦人たちはミミズの空爆に驚き、「キャアーッ!」と叫んで一目散に逃げて行き、少年・少女が高笑いします。この笑い声のタイミングが早過ぎるので(これも編集ミス?)、牧師たちに聞こえてしまうことでしょうに。それ以前の問題ですが、この少女が大量のミミズを用意して木に登っていたということは、その木の下でその時間に追悼会があるのを知っていたようです。しかし、牧師の娘でもない限り、そんな予定を知ることは難しいでしょう。この脚本が「面白ければいいだろう」と、常識を無視しているのはどうかと思われます。

以上のような諸点を除けば、男女の会話、少年少女の会話の機微はよく書けています。母性本能をくすぐるような要素の使い方もうまいと思います。例えば物語の最後で少年の母が迎えに来ますが、無事お産を終えて赤ちゃんを連れています。この母はMelanie Griffithと同年齢という設定ですから、Melanie Griffithが過去の悲劇を忘れて子供を作ろうとすればまだ遅くはありません。多分、そうなるだろうと予測させるエンディングになっています。

私が感心した演出・編集が一ヶ所あります。Melanie Griffithが少年と一緒に食卓で豆の筋取りをしながら、Don Johnsonとの馴れ初めについて話します。少年が「もう彼を愛してないの?」と聞きます。Melanie Griffithはポカンとして約5秒間少年を見つめ、最後に「何て事を聞くの!」と憤慨します。5秒の間(ま)というのは結構長く、映画としては異常なくらいなのですが、ずばり核心に踏み込まれたMelanie Griffithの驚愕と衝撃による硬直を端的に表現しています。編集としては冒険だったでしょうが、私はこのシーンを褒めたいと思います。

結局、少年Elijah Woodも、Melanie GriffithとDon Johnsonも現実を直視し、真実を知ることを恐れなくなります。素直になった少年は新学期には友達が増えるでしょう。Melanie GriffithとDon Johnsonも忘れていた幸せを取り戻すでしょう。少女Thora Birchもお転婆娘からお絵描き少女に変身します(これはちと唐突)。そういうひと夏の各人の人生の転機が描かれている点では、只のロマンスものや少年の冒険ものより優れていると思います。

(May 31, 2007)





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