[Poison] Nothing But a Man
(未)

【Part 2】

八方塞がりとなり、Ivan Dixonは妻と町を捨てて職探しの旅に出ることを決意します。「金を送る」と云うだけで「一緒に行こう」とは云いません。折角両親の反対を押して結婚を決意した妻に対して、ひどい仕打ちです。前妻との間に出来た子供にも養育費だけ送って、一緒に住もうとはしませんでした。人間味豊かな男かと思ったら全く違うわけで、何でも一人で行動しようという身勝手さには呆れます。

彼が旅に出て先ず足を向けたのは父のもとでした。非常に都合良く、父の心臓発作、そして臨終に立ち会うことになります。父を埋葬した後、彼の心の中に変化が起きます。ドキュメンタリー畑のスタッフだからでしょうか、その内面の変化には何の説明もありません。ただ、息子を引き取りに行き、黙って妻のもとに戻り、困難は承知の上で同じ町で苦労する決意を見せて映画が終ります。

しかし、このエンディングは非常に唐突です。愛する妻を置いてまで旅に出たのですから、この町で職に就ける見込みは無いのです。男が家族意識に目覚め、息子と妻と共に暮し始めるのは結構ですが、全く展望がありません。この映画が「身勝手な男が家族愛に目覚める迄のお話」というのなら、それでもいいのですが(それも一つの要素)、タイトルが示すのは不条理な差別に憤る黒人のプライドであり、「白人同様黒人にも恋、愛、家族愛がある」という意思表示です。そのプライドを貫き、家族愛も貫けるという、真のハッピー・エンディング(あるいは希望)は感じられません。これからが一山も二山もある物語のスタートという気がします。

ドラマチックな映画でなく、どこにでもある物語を淡々と描く…というのが狙いだったのなら、それは成功しています。唐突なエンディングも、予定調和やハリウッド流ハッピー・エンドを避けたかったということかも知れません。アメリカの、特に黒人中心のネオ・リアリズムに先鞭を付け、影響の大きかった作品と位置づける人が多いのも頷けます。

(June 25, 2001)





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