[Poison] The Notebook
『きみに読む物語』

【Part 2】

映画の中盤でGena Rowlandsはロマンスの主人公の若い娘であったことが分ります。では、James Garnerも青年Ryan Goslingが老けた存在なのか?というと、これは定かでないように描かれています。しかし最後に、実は老いた二人は共にロマンスの主人公であったことが明らかになります。金持ちの娘Rachel McAdamsは貧しい青年Ryan Goslingを最終的に選んだわけです。

小柄なRachel McAdamsが年とって大柄なGena Rowlandsになるというのは信じられませんが、細長い顔の青年Ryan Goslingが四角い顔のJames Garnerになるというのは、もっと信じ難い。アメリカ映画って似たような顔・体型で老若の俳優の統一を取るということに無頓着ですね。色んな映画で「え、これが同一人物?」と呆れることがままあります。外見の不一致を別とすれば、老境の二人もただの付け足しではなく、物語に深みを与える役としていい芝居をしています。なお、Gena Rowlandsは監督Nick Cassavetes(ニック・キャサヴェテス)の実の母親だそうです。

原題ともなっている'Notebook'は、実はGena Rowlandsにアルツハイマーの兆しが現われた頃、彼女が夫と自分のロマンスを書き綴ったノートを渡し、「私が過去を忘れるようなことがあったら、この物語を読んで聞かせて。心は必ずあなたのもとへ戻って来ます」と記されていたもの。夫James Garnerは愛する妻のために忠実にその指示通りに努めていたわけです。しかし、ノートに手書きされたGena Rowlandsのメッセージは画面では斜めに撮られているし、全文が読めるわけでもないので、ちと理解しにくい憾(うら)みがありました。日本の観客は字幕でちゃんと読めたからいいでしょうけど。

驚いたのはDVDの'Deleted scenes'を観た時です。ここには最近の回想シーンとしてGena RowlandsがJames Garnerにノートを渡しながら「私が過去を忘れるようなことがあったら、この物語を読んで聞かせて」と頼むシーンがあったのです。これなら完璧に理解出来ます。多分、説明的過ぎるということでバッサリ落とされてしまったのでしょう。しかし、手書きのメッセージだけで済ますというのも、考えてみれば無声映画の字幕同様説明的なわけですから、どっちもどっちですよね。

重箱の隅を突つくようですが、物語にいくつか疑問点があります。娘は一年間待っても青年から手紙が届かないので恋を諦めるのですが、何故自分から青年に一通も手紙を出さなかったのか?この女性は活発で積極的な性格に描かれているのですから、ひたすら待っているだけというのは似つかわしくありません。いくら意地悪な母親でも娘が青年に宛てて出す手紙までインターセプト出来ないわけですから、必ず青年に届く筈です。恋人から「何故、手紙をくれないの?」と詰(なじ)られたら、毎日手紙を出していた青年は「こりゃ裏に何かあるぞ!」と考え、ニューヨークまで娘に会いに飛んで行くことでしょう。そしたら、ややこしい紆余曲折もなく、二人は幸せに結ばれたかも知れません。これだと小説はベストセラーにもならず、映画も作られない平凡な恋物語に終ったでしょうけど:-)。私は、こういうストーリィの“抜け”が嫌いなのです。彼女が手紙を出せない何かうまい口実を作ってほしかったと思います。誰でも考えつく選択肢を無視してお話を進める小説作法、映画作法は許せません。

戦地から引き揚げて来た青年が働きもしないで廃屋の修理に精出し、その後も別に職に就いた風でもなくのらくらしているのも妙です。父も貧しかったようですから、遺産で食えた筈はありません。軍人恩給は20年は勤めないと貰えませんから、アフリカ戦線だけで軍から離れた青年が恩給を貰えた筈もありません。修復を終えた豪邸に住み、まるで金持ちのように暮らしているというのが不思議です。

娘の婚約者も聞き分けがよく、諦めが早い。青年が性交渉を持っている近くの未亡人も、物わかりがよく、諦めも早い。娘の母親も苦い青春の想い出があり、娘の幸福を願う母性愛は純粋だった。みんな、いい人ばかり。そして、幕切れでは老いたカップルが一つベッドの上で一緒に昇天してしまう。御都合主義というより、底抜けの楽天主義です。こうあらまほしと願った、その通りをお話にしている感じ。ここまで徹底してやられると皮肉を云う気も失せ、「めでたしめでたしで結構ですね、ハイ、おつかれさまでした」と云うほかありません。

私がこの映画を高く評価しないのは、主演のRachel McAdamsがミスキャストだと思うからです。彼女は到底17歳の固い蕾(つぼみ)に見えず、金持ちのお嬢さんにも見えません。アメリカの女の子が実年齢よりませて見えるのは事実ですが、Rachel McAdamsは22歳ぐらいの、既に何人も男を手玉に取っている下町のじゃじゃ馬ねえちゃんのようです(衣装のセンスも悪いし)。なぜ、こんな女性にRyan Goslingが一目惚れするのか理解に苦しみます。ま、私の好みのタイプじゃないというだけで、他の観客には受けるのかも知れませんが。…と、ここでRachel McAdamsのこの映画公開時の年齢を計算してみますと、何と28歳じゃないですか。無理ですって、17歳を演じるのは。しかし、私の推定も6歳も違っていた。眼力が衰えたみたい。

「評価」の"1/2"は、終始美しい画面にまとめあげた撮影に対して進呈しました。それにしても、この映画の邦題はダサいですなあ。こんなタイトルで客が入るなんて信じられません。

(December 12, 2006)





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