[Poison]

The Man in the Moon

『マン・イン・ザ・ムーン/あこがれの人』

【Part 2】

青年に反感を持っていたReese Witherspoonですが、次第に打ち解けます。しかし、その一つが町へ買い物に行った時の青年の猛スピードによる乱暴運転なのです。最初緊張していたReese Witherspoonは、そのうち笑い出します。田舎とはいえトラクターも走っていれば対向車もあります。結構危険なのです。こういう場合、身の危険も忘れて笑えるものでしょうか?この脚本への第一の疑問です。

Reese Witherspoonは"Yes,sir."、"No, sir."と応えるように厳格に躾けられています。これは今でも心ある家では受け継がれています。夜遊びを咎めてベルトで引っ叩くというのは、まあこれが60年代の南部だからでしょう。現在では "child abuse"になってしまいます。

病院のベッドの妻を、愛情溢れる表情で夫が慰めています。カメラが廊下を写すと、Reese Witherspoonがうつむいて壁に寄り掛かって立っているのが見えます。母の怪我は彼女の夜遊びが原因でしたから、彼女は済まない気持ちで一杯なのです。

病院から家に戻った時、車を出ないでReese Witherspoonは父に謝ります。「叩かれて当然だった」とまで云います。アメリカでは全て言葉にしなければいけません。「態度で分って!」というのは駄目なのです。だから、彼等はしょっちゅう"I love you."と云うのです。で、娘の謝罪を聞いた父親は、運転台から出て、小型トラックのドアをバタン!と閉めます。娘はビクッと震えます。父親が許さないのかと思うと、彼は車の後部を廻って助手席のドアを開け、娘を抱き上げて地面に下し、堅くしっかりと抱き締めます。いい場面、いい演出です。

姉妹が同じ男に惚れるというのは珍しいことではないでしょう。しかし、妹と付き合っているらしい青年を、こうも無言で横取り出来るものでしょうか?妹に「彼とキスしたの?」と聞いた時、妹は「うん、何度もね」と答えたではありませんか(嘘だけど)。妹とキスした仲と知っていてもなお、彼にのめり込む姉はよくありません。少なくとも、のめり込む前に妹と話し合うべきでした。ダンス・パーティのスケベ親子に幻滅し、彼等と対照的にJason Londonが優しいハンサム・ボーイだからといって、こうもすぐ全て許しちゃうというのは、厳格な父親に育てられた効果がゼロであると云わざるを得ません。田舎の娘と云えど、「スマートな姉さん」と尊敬されている女性なのですから、彼女のこの後半の変貌は異常です。これは脚本家の勇み足ではないでしょうか?

姉妹を仲違いさせたままには終れないという苦しさのあまり、脚本家は青年Jason Londonを殺してしまいます。これも非常に芸のない、イージーな解決法に思えます。彼が生きていると、あと二時間ぐらい必要な大作になってしまうのは分りますが、トラクターから転落して死んでしまうなどというのは、面白くもドラマティックでもありません。'Fried Green Tomatoes'『フライド・グリーン・トマト』(1991)でChris O'Donnell(クリス・オドネル)が死んだような、ああいう劇的な死と較べればやはり脚本家を責めるしかありません。

しかし、やはり青年を殺さない方が後味が良かった。長女にもセックスをさせなければ、もっと良かった。そうしたら、この映画は誰にでもある思春期の一齣を描いた名作になったでしょう。セックスの生臭さと青年の死が、この映画の後味を悪くしています。途中まではのどかな南部の暮らしと初々しい青春が描かれて清々しかったのですが、後半に問題がありました。

エンディングの姉妹の仲直りも取って付けたようです。

(June 25, 2002)





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