[Poison] Monster
モンスター

【Part 2】

'Based On A True Story' by Jonathan Vankin and John Whalen (A Cappella Books, 2005)という、実話を元にした映画100本を検証する本を読みました。その中の'Monster'『モンスター』の章から、この映画に関する重要部分を引用します。

「この映画の主人公のモデルとなったAileen Wuornos(アイリーン・ウォアノス)が1991年に逮捕された時、マスコミは『アメリカ最初の女性連続殺人犯』というレッテルを貼った。しかし、明らかに先達は沢山おり、彼女に“最初の”という形容詞は付けられない。

Charlize Theronはその天女のような美しさを、12kgの体重増と【義歯による】歯並びの悪さ、そばかすメーキャップなどの下に潜り込ませ、Aileen Wuornosに変身した。やり過ぎて、本物のAileen Wuornosより醜いほどだ。

脚本・監督のPatty Jenkins(パティ・ジェンキンズ)は、大きく太い文字で書かれた"based on a True Story"という表示で映画を始める。しかし、事実に即しているかのような見せかけは止めて欲しい。主人公に実物と異なる性格(レイプの犠牲となったために犯罪に走った、もともとは好人物という性格)を与えて、『事実に基づく映画だ』と主張するのは正直ではない。彼女の犠牲者(六、七人)の家族たちの感情にも配慮すべきであった。

Aileen Wuornosは注意深く殺人を計画した。通常はハイウェイで商売をする日だが、ある特定の日を『殺しの日』と定めていた。そういう日、彼女は犠牲者の車から指紋や血痕を取り除く洗剤ボトルが入った“殺しのバッグ”を準備した。

彼女は短気で、攻撃的衝動をコントロール出来ず、誰に対しても(彼女を助けようとする人にもさえも)悪態をつく始末だった。

この映画はAileen Wuornosの判決の場面で終るが、実際にはその後に第二幕があった。それはハリウッド関連の物語で、弁護士などが映画化権の交渉人になったのだ。彼女の周囲の人間は、みな金の亡者になったという見方も出来る。

Arlene Pralle(アーリーン・プラリ)という敬虔なクリスチャン婦人が、Aileen Wuornosに同情し、彼女に面会しに度々刑務所を訪れ、仕舞いにはAileen Wuornosを養女にまでした。しかし、Aileen Wuornosが『レイプの犠牲になったというのは嘘だ』と告白するに及び、母親としての責務を果たすことを止めてしまった。【註:これに関するドキュメンタリーを見ると、Aileen Wuornosはあくまでも正当防衛だと主張しています】

Aileen Wuornosは死刑執行の毒薬を自分で注射したいと根回しをし、フロリダ州知事Jeb Bush(ジェブ・ブッシュ。元大統領の弟)はそれを承認した。【註:これは事実かどうか不明】」

私は以前にもこの映画を観ているのですが、この「“南部もの”映画大全集」にフロリダものを採録するのはあまり熱心ではないので入れていませんでした。しかし、上の'Based On A True Story'という本を読み、考え直しました。

この映画のポスターにも"BASED ON A TRUE STORY"とタイトルの下に表示されています。しかし、上に引用したように『レイプの犠牲になったというのは嘘だ』ったと告白しているのですから、この映画の最初の殺人は事実ではないわけです。

DVDの'Special feature'で喋っている脚本・監督担当の女性(長編劇場映画はこの映画が初めて)は、若くて常に強気の発言をまくし立てるタイプなので、あまり真剣に"BASED ON A TRUE STORY"の意味や影響を考えなかったようです。ま、レイプされ殺されかねない状況で、自衛と憤怒から銃を撃つという前提でないと、観客の同情が得られないと計算したのでしょうが、そこで事実を捩じ曲げるのであれば"inspired by a true story"(実話にヒントを得た物語)とすべきだったでしょう。良心の問題です。

Aileen Wuornosが逮捕されて以降、フロリダ州の高速道路に立つ娼婦が次々と殺されたそうです。Aileen Wuornosは男たちを殺しただけでなく、自分と同類の娼婦たちまで間接的に殺したことになります。

最初にこの映画を観た時は、とにかくCharlize Theronの変身と演技に圧倒され、☆☆☆という評価の感じでしたが、二回観ると彼女の演技がやや臭く、一本調子であるように思われました。その熱意と献身的努力にはなおも頭が下がるものの、☆を一つ減らすことにしました。

Charlize Theronがここまでリアルさを追求するのなら、一つだけ気になった点があります。公衆トイレで身体を洗う際に、脇の下の毛が剃られていることに気づきました。モテルにも泊まれないホームレスのような女性が、脇の下を剃っているなんて信じられません。ぼさぼさに伸びているのが自然でしょうに。

(December 29, 2010)





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