[Poison] Murder in Mississippi
『マーダー・イン・ミシシッピ/炎の十字架』

【Part 2】

この映画は明らかに黒人層の受けを狙って脚本が書かれ、製作された映画です。Blair Underwoodは、James Chaney(ジェイムズ・チェイニィ)という実在の青年を演じているのですが、非常に勇ましく、きびきびとして格好良い。彼は白人のTom Hulceに食ってかかったり罵ったりもする人物として描かれていますが、本当のJames Chaneyは家庭内では不在の父親代わりとして逞しかったものの、社会的には(学校や人付き合いでは)シャイな青年だったそうです。まして、COREにおいてはTom Hulceはボスです。議論は出来たでしょうが、罵ったりは出来なかったでしょう。しかし、James Chaneyが単なる被雇用者だと、いつもながらの白人(この場合Tom Hulce)がヒーローの映画になってしまいます。この映画の製作者たちはそうしたくなかった。で、映画的想像力が許す限りの発言権と行動力をこのJames Chaneyという人物に与えたのです。彼は白人Tom Hulceと互角で渡り合えるパワーを得、黒人青少年がJames Chaneyをヒーローとして崇敬出来る存在に変貌したのです。

Tom Hulceのモデルは北部育ちのユダヤ青年Mickey Schwerner(ミッキィ・シュワーナー)です。この事件を500頁もの本にした'We are not Afraid' by Seth Cagin and Philip Dray (Macmillan, 1988)によれば、彼はミシシッピ到着時には批判を恐れて山羊髭を剃っていたそうです。しかし、その後は生えるに任せ、K.K.K.から"Goatee"(山羊髭)と綽名されるようになります。この件以外は、Tom Hulceの役はかなり実際のMickey Schwernerに近いように思えます。

学生ヴォランティアを演ずるJosh Charlesは、本物のAndy Goodman(アンディ・グッドマン)に較べるとやや線が細く、軽薄な気はしますが(写真からの印象だけですけど)、製作者たちはニューヨーク育ちの若者という生きの良さを加えたかったのでしょう。

映画の中に選挙権登録運動に助力するメリディアンの判事(当然、白人)が出て来ますが、こういう存在があったと聞いたことはありません。前述の本'We are not Afraid'でも触れていませんから、これはフィクションの産物でしょう。映画に多少良い人物も含めれば、南部の白人たちにもゴマが摩れるという計算だったのではないでしょうか?

俳優Greg Kinnear(グレッグ・キニア)の登場には疑問があります。彼は大学で放送ジャーナリズムを専攻し、MTVで現場リポーターをしばらく務めていたそうですから、この映画でTVリポーターになるには適役です。しかし、"I'm Greg Kinnear from Philadelphia, Mississippi."と実名でアナウンスするんです。この、凄く真面目で深刻な映画に、こういう楽屋落ち風のゲスト出演は相応しくないように思えます。

繰り返しですが、このテーマに興味をお持ちなら、私の姉妹サイト「公民権運動・史跡めぐり〜ミシシッピ州『フリーダム・サマー』活動家三人の暗殺 (1964)」をお読み下さい。

(January 27, 2008)





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