[Poison]

The Miracle Worker

『奇跡の人』

【Part 2】

HelenとAnnieの“激闘”は凄まじい限りです。Helenの反抗、反撃は想像を絶するもので、ある意味ではエイリアンとの闘いみたいなものです。

しかし、Helenは一種の野生児のような存在ですから、彼女の教育が難しいのは予想出来ることです。我慢ならないのは、旧弊で独断的なHelenの父親です。南部の人間が皆こうであるわけではありませんが、確かに今でも男性(夫)が全てをリードするという傾向は残っています。数年前のことですが、南部のバブティスト教会の連合組織が「信者の妻は夫に従順に行動し、逆らわないことを旨とすべし」という決議をしたと報道されていました。時代錯誤もいいところですが、そういうことがまだあり得る土壌なのです。1987年頃であれば、もっとひどかったでしょう。

そういうわけで、Helenの母親も常に夫の顔色を伺っています。最終的には、何事においても一家の主が決断を下すことになっているからです。

夕食の場面で、父親と息子がVicksburg(ヴィクスバーグ)の闘いについてやりとりします。Vicksburgは南北戦争末期の戦場となった町で、ミシシッピ州西部のルイジアナ州との境に位置します。私も二時間ほどのドライヴでこの町を訪れたことがあります。全部廻るのは大変なほど広大な古戦場が歴史公園として保存されています。

息子は自分を馬鹿にして一人前の青年と認めない父親に不満を抱いていますが、南部の伝統で強い父親に逆らえず、誰彼無しに皮肉を云うことで屈折した感情を発散させています。しかし、Annieが教師としての責任感から雇い主である彼の父に食ってかかる勇敢な行動を見て、彼は自分が如何に意気地なしであったかを悟り、終盤ではAnnieに味方して父にショックを与えます。ずっと嫌味な若者のイメージで一貫していたので、急に豹変したという感じも無くはありませんが、Annieの強い意思、個性が一人の人間の在り方を変えたという意味では、映画における一つの感動の要素です。もう少し上手く処理されていて、唐突感が無ければ最高でしたが。

“激闘”や緊迫した人間模様の中にも、いくつもユーモラスな要素が散りばめられています。そして、Helenが素直になったかと思わせて、また我が侭に戻す呼吸も絶妙です。緩急自在の脚本、演出と云えるでしょう。

(February 24, 2001)





Copyright ©  2001-2011   高野英二  (Studio BE)
Address: Eiji Takano, 421 Willow Ridge Drive #26, Meridian, MS 39301, U.S.A.