[Poison] Steel Magnolias
『マグノリアの花たち』

【Part 2】

元の舞台劇は一幕物で、登場するのは女性六人だけだそうです。つまり、この映画の男性達はオリジナルには存在せず、映画を作る際に付け加えられた連中に過ぎません。そう聞けば、どの男一人を取っても満足出来る肉付けがなく、木偶の坊みたいなのばかり揃っている謎が解けます。この映画では男は単なる飾りなんですね。

結婚式、腎移植などで、女達はシリアスになりますが、男達は真剣味がなくふざけています。いくら“レッドネック”(南部の無教養者)だからといって、この扱いはひどい。

娘が亡くなって、葬儀場の心配をするのは母親です。普通は母親は泣き崩れていて、男性達がそういう具体的スケジュールを決めていくところですが、ここでも男達はグズで母親が気丈というパターンです。

葬儀が終ってみんなが引き上げる時、Sally Fieldだけが一人お棺の前に立ち尽くして、後ろ姿を見せています。これは素晴らしいショットです。その後、帰りかけていた四人の仲間が、それぞれSally Fieldのところに取って返します。これもいいシーンです。

Sally Fieldの演技は概ねとてもいいのですが、お墓の前の長いモノローグは一寸引っ掛かります。感情を昂ぶらせ、声高、早口にしておいて、急にストンと冷静になりますが、これを二回繰り返します。舞台ではこういう演技が効果的なのですが、映画だとあざとく感じられます。芝居が芝居と見えてしまうので、“母親”ではなく母親を演じているSally Fieldが前面に出てしまい、感情移入出来なくなります。

そのSally Fieldが「何かを殴りたい」と口走った時、一瞬間(ま)を置いてOlympia Dukakisが"Here! Hit this!"(さあ、これを殴りなさい!)と云ってShirley MacLaineを押し出すのは傑作。Sally Fieldまで笑い出さずにはいられないユーモアです。

Olympia DukakisにはShirley MacLaineに云う"I love you more'n my luggage"(あなたを愛してるわよ、私のカバンよりも)という、もう一つ傑作な台詞があります。

多分、舞台は結婚式の日で始まりお葬式の日で終るという構成だったのでしょう。それだと、なかなか考えた趣向です。映画ではJulia Robertsの子供がイースターエッグを探す姿と、妊娠したDaryl Hannahが病院へ運ばれるシーンを付け加えています。ハッピー・エンド風にしたかったようですが、無理にそんなことをする必要はなかったと思います。お葬式で終るスタイルの方が、起承転結がハッキリして好きです。

この作品は「女の友情」を描いた映画と呼ばれているようです。パーティの席上でJulia Robertsの妊娠が公となり、一同Sally Fieldを祝福しに集まりますが、彼女は憂い顔をしています。「もうこうなったんだから孫の誕生を楽しまなくちゃ」と云いつつ、Dolly PartonがSally Fieldの手に自分の手を重ねます。各自が次々に手を重ねます。「私の心配が取り越し苦労であることを祈るわ」とSally Fieldも手をそえます。重ねられた手は友情と団結の象徴です。どっかで見たことがあると思ったら、これは'Ocean's Eleven'『オーシャンと11人の仲間』ですね。

(March 11, 2001)


【井原さんのDVD試聴記】

映画通の井原さんには、私の映画サイトの相談役になって頂いています。このところ井原さんが熱中しておられるのはDVDに入っている監督の製作裏話を聞くことだそうです。頂いたメールの転載の御了解を得ました。お楽しみ下さい。

'Steel Magnolias'DVD版には別音声に監督のHerbert Ross(ハーバート・ロス)の解説が入っていましたので、興味津々で聞いてみました。

一番びっくりしたのは、この全ての撮影を原作の劇作家(映画の脚色もした) Rebert Harling(ロバート・ハーリング)の出身の小さな街で行っていた、ということです。美容室のセットだけは、非常に狭いため、地元高校の体育館を借りて作らなければならなかったそうですが、残りはすべて、室内も室外もオールロケーションで撮りあげてしまった、とか。この映画の撮影監督John A. Aronzo(ジョン・A・アロンゾ。'Norma Ray'もこの人)は名手ですが、 Herbert Rossも"Super Cinematography"と舌を巻くぐらい、すごい腕をもっているんでしょうね。夕方の狭い屋内や夜間(クリスマスなど)、病院内のシーン、葬式の場面なんかもとてもよく撮れてると思います。

演技陣のアンサンブルが難しいので(特に美容室のシーン)は構図や編集のテンポのタイミングなど大変だったと述べてます。

ほとんどエキストラは地元の人たちだそうで、それによる南部らしい所(結婚式のダンスシーン)も見受けられます。衣装なども全部地元で調達したみたいです。

原作が戯曲なので、即興演出も含めていろいろなシーンを付け足すのに苦労したようですが、その割には戯曲の映画化としてはとても成功している方ではないでしょうか。 あと、音楽の今は亡きGeorges Delerue(ジョルジュ・デルリュー。'Mississippi Mermaid'などを作ったフランソワ・トリッフォー作品の常連)の音の入れ方も素晴らしいと絶賛していましたし、彼自身も非常に神経を払いながらスコアを入れていった、とのことでした。

Herbert Ross自身もこの映画製作中、奥さんを病気で失っており、生命維持装置を外すシーンも思い出を込めて作ったということでした(この部分には台詞も音楽もなし)。

高野さんの'Steel Magnorias'の文中でSally Fields(サリィ・フィールド)のお葬式のシーンの演技について言及されていたところがありますね。彼女は、このシーンのために、その前日一晩中枕に顔を伏せて大きな声を上げて、声を嗄らしていたそうです。そうすることで、彼女はこの場面でわざわざつぶれた甲高い声で演じることができた、と監督も感激しておりました。

こうして見直すと、この映画の偶然(最初のキャスティングはJulia Roberts(ジュリア・ロバーツ)を想定してなかったようです)と必然(強力なスタッフとキャスト)がうまく配合されて成功したみたいですね。

(August 13, 2001)


【Part 3】

この映画のDVDのSpecial Featuresにある'In Full Bloom: Remembering Steel Magnolias'を観ました。主に原作・脚本家のRobert Harlingの回想です。彼によれば、これは実話で、糖尿病を患いながら妊娠して亡くなった彼の妹Susan Harling Robinson(スーザン・ハーリング・ロビンスン)がモデルだそうです。彼は戯曲作家でしたから、彼の妹が亡くなった時、多くの友人たちが「彼女について何か書きなさい」と勧めたのだそうです。で、彼は短編小説を書いたのですが、会話を多用すべきだと思い、戯曲に書き直しました。その舞台が好評だったため、彼が映画の脚本も書くことになったのだそうです。

彼は牧師の役で、結婚式と葬儀の二シーンに特別出演しています。

Robert Harlingは妹の臨終前後のシーンを嘘っぽくしたくなかったので、実際に妹の臨終に立ち会った医師や看護婦に出演して貰ったそうです。

以下はIMDbのTriviaに出ている話で、真偽のほどは保証出来ません。Robert Harlingの母親が病室の撮影を見学していました。スタッフは、「お嬢さんの臨終シーンは見ない方がいいのでは?」と示唆。多分、泣かれると困ると思ったのでしょう。しかし、母親はその勧めを断りました。理由は「臨終のシーンの撮影が終わった時、Julia Robertsが起き上がって病室を出て行くところを見たいから…」だったそうです。本当の娘も、そんな風に生き返ってくれたら…という母親の心情が伝わって来ます。The Curious Case of Benjamin Button『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』(2008)に逆回転する時計を作った技術者が「時を逆回転させて(第一次大戦の)欧州戦線で亡くなった息子たちを取り戻そう」と叫んだ趣旨に似ています。

Julia Robertsが演じた役、製作者たちが考えた第一候補はMeg Ryan(メグ・ライアン)だったそうです。Meg Ryanだと、確かに病を押して出産するという強気な女性に相応しいでしょうが、全体の雰囲気はかなり違ったでしょうね。

(November 25, 2012)





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