[Poison] My Own Love Song

【Part 2】

こういう映画は"road movie"(道中もの)というカテゴリーに入ります。道中のエピソードの連続によって(観客を楽しませ、ハラハラさせるだけでなく)主人公を人間的に成長させたり、運命を変えたりするものです。Olivier Dahanによる脚本は、主人公と変テコな人物たちとの出会いは用意するものの、それがただ点々と並ぶだけで何か進展・発展があるわけではありません。唯一気を持たせるのは、Renée Zellwegerと息子との再会ですが、われわれは息子について何も知らないし、彼女の息子への思いも語られないので、それほど期待出来ません。そして、ついに再会しても何も言葉を交わさないのです。「涙の再会なんて見慣れてるでしょ?何も話さないなんてのもいいんじゃない?」ということかも知れません。あるいは、選んだ子役がヘタクソだったため諦めたのか(まさか、そんなことはないでしょうが)、いずれにしても肩すかしで、画竜点睛を欠く感じでなのは否めません。

監督はこの再会のシーンで二つの実験を行なっています。その一つは、息子の誕生パーティが行なわれている敷地にRenée Zellwegerが入って行く時、無音になることです。サスペンスを盛り上げるのに太鼓を連打するとか、ドッキンドッキンと心臓音を高鳴らせるのは常套手段ですが、無音にするのも皆無ではありません。主人公にとって永遠の時が流れるような、あるいは逆に時が停止したような心象を表現する際に使われます。残念ながら、この映画の場合はDVDかTVが故障し、音が途切れたようにしか思えません。

もう一つは、Renée Zellwegerが、成長して見分けのつかない息子のために歌っていると、息子が気づいて母親の前にやって来ます。画面の彼女は歌を止めて息子をじっと見つめるのですが、サウンドトラックの歌はずっと続きます。これは面白い趣向ですが、「どうです?こんなの見たことないでしょ!」と監督が自慢げに鼻をピクピクさせている姿が想像出来、あざといだけの印象しか残りません。

この脚本には以下のような問題点があります。
・Forest Whitakerが、Renée Zellwegerの家の家財をぶちまけ散乱させるような暴力的人間に見えないこと。
・家を滅茶苦茶に壊したように見えるのに、一晩ですっかり元に戻るという奇跡。
・バスの中でMadeline Zimaが結婚指輪を失くし、それをForest Whitakerが見つけるのが知り合う切っ掛けですが、普通バスの中で指輪を外したりするもんでしょうか。信じられません。
・Madeline Zimaの姉の家でのパーティは、参加者が十人弱の小規模なものです。それなのに、100人のパーティのためのような電飾を施しています。不自然です。
・Renée Zellwegerは他人の車に財布を置き忘れますが、これも不自然。
・いくらやかましく口論したからと云って、長距離バスの運転手が田舎のド真ん中で乗客を抛り出すなんて、不自然。「抛り出すぞ!」と脅しただけで、三人は黙った筈。
・Renée Zellwegerにホテルで歌わせようとするForest Whitakerに腹を立てた彼女が行方不明になりますが、車椅子の人物が外へ飛び出したらForest Whitakerの性格としては心配してすぐ後を追う筈です。それなのにMadeline Zimaと楽しそうにお喋りして、かなり経ってからRenée Zellwegerを探したりします。これはNick Nolteとの約束を破るのか?と心配させるだけの手段に過ぎないのが見え見えです。
・実写とアニメの組み合わせも別に面白くありません。「何?これは『セサミ・ストリート』だったのか?」と思ってしまいます。天使が飛び回るのも陳腐。'Angels in the Outfield'『エンジェルス』(1994)の、野球場を飛び回る天使の方がずっと感動的です。われわれ観客はForest Whitakerのようには天使を信じていないのに、いきなり見せられて「ほら、信じろ!」と強制させるようで辟易してしまいます。

これでRenée Zellwegerの歌が素晴らしければいいのですが、'Coal Miner's Daughter'『歌え!ロレッタ愛のために』(1980)のSissy Spacek(シシィ・スペイセック)のような立派なものではなく、そこら辺のカラオケ・ファンの方がずっとましだと思えるような歌声。Sissy Spacekは子供の頃に5〜10歳の女の子達のショーを観て、「私もあんな風になりたい」と思って舞台用の歌と踊りの稽古を始めたそうですから、それと較べちゃ可哀想ですが。

(January 16, 2011)





Copyright (C) 2001-2011    高野英二   (Studio BE)
Address: Eiji Takano, 421 Willow Ridge Drive #26, Meridian, MS 39301, U.S.A.