[Poison] Louisiana Story
『ルイジアナ物語』

【Part 2】

高名なドキュメンタリストがなぜドラマを撮りたくなったのか、よく解りません。ドラマと云っても、要するに俳優を使って撮影するというだけの話で、ドラマチックなお話があるわけではないのです。そもそも、共同で脚本を書いたFlaherty夫妻にとって、この映画が初めてのオリジナル脚本であり、立派なドラマが書ける筈もありません。

Part 1をお読みになった方は、その後の映画の展開をどう推理されたでしょうか?自然を愛する少年は油田開発が彼の愛する自然を破壊することに憤り、石油会社に掘削権を譲渡し金を貰った父を罵り、滂沱の涙を流す?実は私は映画が始まって五分ぐらいで登場するダイナマイトの爆発とキャタピラー車によって、「あ、自然破壊を告発するドキュメンタリーだな!」と直感しました。

私はNHKのカメラマンとして数え切れないほどの自然番組の撮影を担当しましたが、それらのほとんどの理念は自然讃歌、自然破壊告発でした。開発、乱獲、汚染などは全て“悪”でした。NHKばかりでなく、民放を含めて日本の自然番組のトーンは共通でした。ですから、『砂漠は生きている』の五年前に製作されたこの映画が、遠く日本の自然ドキュメンタリーの源流であったのか!と感慨深い思いをしたのです。

ところが、この映画の少年はボーリング船の作業員たちと仲良くなり、何度も作業を見に行き、作業員たちと少年は終始ニコニコ笑顔を交換します。ボーリング作業そのものも非常に丁寧に雄々しく描かれています。「妙だな?」と思いました。少年は幸せそうにプレゼントの銃を撫で廻し、やがて掘削を終えて引き揚げて行くボーリング船の人々に手を振って別れを惜しみます。えーっ?結局、この映画では石油採掘会社は“悪”ではなく、家にお金をもたらしてくれた善玉なのです。

1948年当時、アメリカでは環境破壊とか公害などの認識が不足していたのでしょうか?そうかも知れません。確実に云えるのは、この映画の製作・共同脚本・監督を勤めたRobert J. Flahertyにそういう認識が全く無かったことです。なんと、Standard Oil Company(スタンダード石油会社)から$258,000の出資をして貰ってこの映画を製作したのだそうです。スポンサーを“悪”に出来るわけがありません。道理で、ボーリング作業の場面が長かったわけです(相当長い)。

'The Pelican Brief'『ペリカン文書』(1993)は、ルイジアナ州の「州鳥」であるブラウン・ペリカンの生息地を破壊し開発を目論む大企業、大統領選挙の内幕などが絡み合った陰謀をめぐるお話でした。石油は貴重な資源ですが、やはり掘削作業は野鳥や動物を脅かし、漏れた石油は魚類を殺すわけです。それを見抜けなかったRobert J. Flahertyの限界を感じさせられました。

(January 24, 2007)





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