[Poison] Lolita
『ロリータ』

【Part 2】

私が数年前にニューオーリンズのバーボン・ストリート界隈を歩いていたところ、撮影のための車が数台止まっていました。見渡してもどこにもカメラが見えません。「何の撮影ですか?」と聞くと、「'Lolita'だ。家の中で撮影してるんだ」という返事。「何だ、TV映画か」と思いました。リメークを企てるようなのはTVしかないだろうと思ったのです。本当は劇場映画で、不本意にTVで放送されることになったとは知りませんでした。当家では高価な映画専門CATVは契約していませんので、TV放送は観られませんでした。

ニューオーリンズの場面は、路面電車越しの進学予備校の全景と、いくつかの街路シーンです。そのうち印象的なのは、喧嘩してLolitaが雨の中を自転車で町へ出て行き、Jeremy Ironsが走って追いかける場面です。'This Property Is Condemned'『雨のニューオリンズ』(1965)でもそうでしたが、ニューオーリンズと雨はセットになっているようです。本当は季節によるんですけどね。私が見掛けた時の室内撮影がどれかは分りませんでした。

映画の初めの方で紹介されるLolitaは、身体つきこそ少女ですが、その行動たるやまるで赤ん坊か幼児です。冷蔵庫のドアを開けてべったりと座り込み、アイスクリームだか何かを指で掬って食べます。容器を持ち上げて落ちて来るしずくを舐めます。彼女がミルクを飲むシーンもありますが、うっすらと上唇にミルクが残ります。これは"Got milk?"(ミルク飲んだ?)というこちらのシリーズ広告の真似ですね。広告では野球選手や映画スターなど有名人が多数登場しますが、大人が子供っぽい顔になるのが魅力です。この映画でも幼さを表現する手段として使われています。

しかし、性的にも幼いわけではなく、わざと身体の接触を仕掛けて来ます。突如Jeremy Ironsの膝に乗ったり、キスしたりします。夏目漱石の『三四郎』の美禰子は、肉体的接触ではありませんが言葉や行動でやはり三四郎の気を引きます。彼女自身、そういう言動で三四郎を惑わしたことを後に認め、恥じます。Lolitaも明らかに男の気を引いていたのです。まあ、14歳の少女を誘惑するのではなく、少女から誘惑されたのだという、作者側の言い訳に過ぎないとは思いますが。

私個人としては、この女優に魅力も感じないし、時として乱暴になる幼女のような小娘は嫌いです。いくら躾けが不足だからといって、この娘の態度は目に余るものがあります。

この映画の最後は大仰なほどドラマチックです。しかし、これほどでなくても、いずれ破局はやって来たであろうと思われます。Lolitaはいずれロリータではなくなるからです。二人がずっと一緒だったとして、20歳のLolita、30歳のLolitaはもはやロリータではありません。只の普通の女であって、この男が望んだ14歳の少女ではなくなります。

Lolitaの側からしても、いつまでも人形のように生きているわけには行きません。知恵も付くし、世事にもたけて来ます。倍も年上の男にずっと満足していられるわけもないでしょう。

そういうことは観客の誰もが抱く予感です。その一つか二つに肯定的なウィンクをして見せるだけでいいので、何もこんな血塗れの結末をつけ、「男も女も間もなく死んだ」などという字幕を入れる必要はありません。「罪深い人間は天から罰せられる」的思想に迎合した辻褄合わせに感じられます。

そういう哀れな末路への予感があるため、途中観ているのが辛くなります。'Bonnie and Clyde'『俺たちに明日はない』や'Butch Cassidy and the Sandance Kid'『明日に向って撃て!』なども哀れな結末にひた走る映画でしたが、少なくとも彼等は彼等の青春を燃焼し尽くしたカタルシスがありました。'Lolita'の場合は後ろめたい思いがあるだけで、何も残りません。大きな違いです。

ところで最後の方で、Jeremy Ironsは車でLolitaにお金を届けに行きますが、彼女の住んでいる家はどう見てもアメリカ風です。続いて、同じ車で謎の男の家を探し当てます。字幕は出ないのですが、風景はどう見てもフランスです。謎の男を殺した後警察に追われますが、警官の制服もフランス風です。アメリカからフランスへいつ話が飛んだのかもよく分らないのですが、同じ車であるというのが解せません。人を殺しに行くのにアメリカからわざわざ車を運ぶものでしょうか。不思議です。

(June 02, 2001)





Copyright ©  2001-2011   高野英二  (Studio BE)
Address: Eiji Takano, 421 Willow Ridge Drive #26, Meridian, MS 39301, U.S.A.