[Poison] The Bad Lieutenant: Port of Call - New Orleans
『バッド・ルーテナント』

【Part 2】

こんな映画を作って何が楽しいのか?こんな映画を観て何が楽しいのか?…と思わざるを得ません。ま、Nicolas Cageのオーヴァーでエキセントリックな演技を見物し、コカインの吸い方を学び取ることは出来ます(現物は手に入らないけど)。しかし、楽しくも快くもスリリングでも感動的でもないし、興奮もしません。主要人物のいずれにも感情移入出来ません。“悪徳警官もの”の映画は過去にも沢山ありますが、そのどれもが後味の悪いものでした。アメリカ映画は悪が栄える結末を良しとしないらしいので(何しろ正義が勝つと信じている国ですから)、それは当然の帰結と云えるでしょう。

目撃者である15歳の少年が消えてしまいますが、それは親切な老婦人が彼の身を案じてイギリスへ旅立たせたせいであることが分ります。しかし、食料品の配達をしている貧しい黒人少年がパスポートを持っている筈はありません。新たに申請するわけですから、たった二、三日でパスポートが交付されるとは思えません。

Big Fate逮捕の際、Val Kilmerが西部劇もどき(あるいはダーティ・ハリィもどき)に、Big Fateと拳銃の対決をしようとします。「こんな奴を裁判にかけるなんて無駄だ。殺しちまう方がいい」という論理ですが、これはどう見てもVal Kilmerに見せ場を作ろうとした配慮に過ぎないように思えます。無理があるし、スリルもありません。

悪玉Big Fate逮捕の決め手は、コカイン吸引パイプについたBig Fateの唾液を検査したDNAの一致ですが、そのパイプはNicolas Cageが後から現場に仕込んだものであって、(自作自演ではなくても)担当刑事一人による発見では「でっち上げだ」と騒がれる恐れが充分にあるでしょう。実際にでっち上げですが:-)。

Nicolas Cageの麻薬摂取は「囮捜査の手段だった」と抗弁出来るとしても、彼がリハビリ治療をした形跡はないので、彼が麻薬中毒である疑いは持たれて当然でしょう。

また、老婦人二人を脅した嫌疑は消えていませんし、市警倫理調査局の調査が立ち消えになったという話もありません。

以上のようにNicolas Cageを取り巻く疑惑は数々あるのに、彼が警部に昇進するというのは無茶苦茶です。'Forrest Gump'『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994)のような漫画チックな物語なら許されるでしょうが。

(May 02, 2010)





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