[Poison] All the King's Men
『オール・ザ・キングスメン』

【Part 2】

この映画の最大の欠点はSean Pennが到底政治家に見えないことです。モデルのHuey Longも丸々とした大きな顔でしたし、1949年版の主役Broderick Crawford(ブロデリック・クロフォード)も大きい面構えでした。顔の小さい政治家、Sean Pennのように細く尖った顔の政治家っていないような気がします(独断と偏見ですが)。顔が小さいと舞台俳優に向かないように、顔が小さいと政治家に向いていないのではないでしょうか。現ブッシュ大統領はあまり大きな顔ではありませんが(でかいツラは別として)、彼には親の七光りがありましたし、初当選の際には投票システムのトラブルに助けられた感じもありました。ゴアが再カウント作業をもっと主張すれば、どう転んでいたか解らなかったのです。投票のトラブルが最も多かったのは、ブッシュの弟が知事をやっているフロリダ州だったというのも怪しい気がします(これも偏見)。

私はSean Pennは好きな俳優なのですが、顔だけでなく声もこの映画の役には向いていないと思います。もっと張りのある太い声が出ないと、この役がするような絶叫調の演説には向きません。彼が怒鳴ってもか細くて、聞くのが辛い。しかし、軽薄な若者を演じた'Fast Times at Ridgemont High'『初体験/リッジモント・ハイ』(1982)あたりのSean Pennからは想像も出来ないほどいい役者になりましたね。

Jude Lawは、いつもいい男に見えるような仮面を被ったような演技で、ずっと一本調子。ま、物語のオブザーバーという立場もあるにせよ、常に感情を殺しているようで物足りません。

Anthony HopkinsもKate Winsletも平均点。Sean Pennの妻を演じるPatricia Clarksonは結構頑張っていますが、見せ場がない。一番印象的なのはSean Pennのボディ・ガードを演じているJackie Earle Haley(ジャッキィ・アール・ヘイリィ)です。その辺の大工さんを役者に雇ったような地味な顔で、演技も地味。それでいて逆に目立っています。

映像はいいし、音楽もいいし、俳優陣は最高なのですが、全員この映画に携わったのが時間と労力の無駄だったように思えます。1949年版はコンパクトだっただけに物語の骨組みがガッシリして見えました。こちらはJude Lawの家庭事情だのロマンスだのに余計に時間を与えた分、焦点が定まらなくなっています。要素を増やして平板になってしまったという、逆効果の見本のような映画です。

最後にSean Pennは議会の入り口で射たれるのですが、急にここで映像が白黒になります。どうしてかと思ったら、Sean Pennの身体から出た血と暗殺者の血が混じり合い、そこでカラーに戻すということをしたかっただけなのです。単に監督の趣味であって、何の意味もありません。これが、射たれたのは白人で、射ったのが黒人というような場合なら、どっちの血だって同じように赤いんだというような意味を篭められますが、両方白人ですし人種問題は絡んでいません。両人が実は兄弟とか親戚だったというような場合も、血を交える意味はありますが、この場合も白黒からカラーにする意味は認められません。私も昔はそういう小手先の手法を使ったことを告白しますが、今にして思えば独りよがりだったと反省しています。この映画の監督も反省しなさい。

Sean Pennを殺すのはKate Winsletの兄です。誰かが彼に「あんたが病院長になれたのは、妹のKate Winsletが知事と寝ているお蔭だ」と電話したからです。Jude Lawは、電話したのは知事の妻か副知事のどちらかだろうと推理しますが、夫の浮気に堪えられなかった妻が黒幕という描き方になっています。しかし、この妻もJude Lawと浮気した過去があるわけですから、夫を怨む資格はないでしょう。Kate Winsletの兄にしても、落ちぶれた自分に病院長職を貰う代償に知事に身体を任せている妹(と誤解しているわけですが)を射たずに、知事を射つのも妙です。そもそもなぜKate Winsletが知事の情婦になるのかも謎。この辺は原作の問題点なのかも知れませんが、それを解決しないで観客に向かって抛り出した脚本の問題でもある筈です。

(January 28, 2007)





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