[Poison] A Time to Kill
『評決のとき』

【Part 2】

この映画を初めて観た時、てっきり数十年前の話かと思いました。弁護士夫婦はエアコンの無い部屋で汗みどろになっています。いやしくも弁護士でそんな家に住む筈がないので、エアコン普及前の時代と思ったわけです。また、K.K.K.がデモ行進するなど今では考えられません。しかし、誰に聞いてもこの物語は只今現在であると断言します。だとすると、非常に恐いですね。

警官までK.K.K.に入団するというのも恐ろしい。Matthew McConaugheyの事務所の秘書の家が襲われて、旦那が殺されてしまいます。秘書は事件に関係無いと思うんですが、こうも見境が無いんでしょうか?

K.K.K.と黒人達が衝突した時、K.K.K.の首領が焼かれて死にます。これも凄い話です。

この映画にはいくつかいい台詞が出て来ます。Samuel L. Jacksonに黒人擁護組織NAACPが腕利きの弁護士を世話しようとした時に、彼はあえてMatthew McConaugheyを選びます。Matthew McConaugheyは喜んで「俺たちはいいチームだ」と云いますが、Samuel L. Jacksonは「俺は牢の中で、あんたは外だ。俺たちはチームじゃない」と応えます。

判事がMatthew McConaugheyを自宅に呼んで、ざっくばらんな話をします。「有罪と認めても20年の刑期だろう。なぜ認めない?」「奥さんが可哀想じゃないですか」「未亡人になるよりマシだろう」

Matthew McConaugheyの家が焼かれた時、彼は家に居た筈の犬を心配し、犬の名を呼びます。彼の友人は彼の身を案じ、事件から身を引けという見地から「犬は死んだ。次はあんたの番だ」と云います。

切りつけられたMatthew McConaugheyをSandra Bullockが手当します。彼が「痛〜い!」と叫ぶと、"Sorry. Sissy."(ゴメン、意気地なし)と云います。

明日は判決という日、Matthew McConaugheyは絶望的な雰囲気になっています。彼一人が頼りのSamuel L. Jacksonは、「あんたが俺を見る時、一人の人間を見ていない。一人の黒人を見ているに過ぎない。それじゃ、お前も他の連中と同じじゃないか」と云います。

何も切り札の無いMatthew McConaugheyは、最終弁論で陪審員に目をつぶって貰い、少女が暴行されるディテールを語ります。女性陪審員たちの顔に涙が流れます。最後に、Matthew McConaugheyが「さて、この少女が白人だと想像して下さい」と結ぶと、男性陪審員たちはショックを受けます。他人事であったことが、自分の娘に起きたイメージに変貌します。この弁論が全てを引っ繰り返し、肌の色にとらわれない判決へと導きます。まさに一世一代の"tour de force"(離れ技)です。

まあ、このテはそう何度も使えるものではないでしょう。いくら正気を失っていたとしても、仕返しの殺人は白人がやるリンチと全く同じで、法や裁判システムを無視した行為です。これが無罪になってしまえば、理由さえあれば人を殺していいことになってしまいます。Samuel L. Jacksonには同情はしますが、このケースに無罪は無茶だと思います。

舞台となったCantonという町は、'Ghosts of Mississippi'『ゴースト・オブ・ミシシッピー』の舞台である州都Jackson(ジャクスン)から北へ40kmほどのところにあります。完全な内陸部です。Matthew McConaugheyとSandra Bullockが食事でclawfish(ザリガニ)を食べるシーンが出て来ます。ザリガニはメキシコ湾岸の名物ですから、多分シーフード・レストランがそこから取り寄せたものでしょう。

『ゴースト・オブ・ミシシッピー』の検事は人種的偏見に満ちた妻に去られてしまいます。こちらの弁護士の妻は、娘を親元に置いて夫の激励に戻って来ます。相当違います。

妻がいない時にMatthew McConaugheyとSandra Bullockが「あわや…」という感じになりますが、浮気をしちゃうと'The Firm'『ザ・ファーム/法律事務所』と同じになっちゃうので、ここでは自制しています。もったいない(ウソ!)。

(February 27, 2001)





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